No.13 小菅エゴマくんの独り言(小林農園小林優子) 2016220

 

◆僕の死

ある夏ヒョロヒョロ伸びた僕は、小林農園に貰い受けられた。

農園のご主人は僕を無造作に農園の畑に植えてくれた。

元僕がいたところ、平地小林農園は急斜面、畑は耕されたばかりだ。

傍にいたのは大豆、僕より早く育って先輩である。

大豆の育ちが悪く、僕はその代役みたいなものだ。

だからご主人は僕のこと見向きもしない。

やがて僕の周りは雑草だらけ。

大豆とともに僕は雑草の中で息苦しい。

ヒョロヒョロと背が伸びた。

でも僕は秋になると、花を作り、実をつけて、立派に子孫を残した。

でも、ご主人は僕の存在を忘れたようだ。

元々、ご主人は僕のことなど頭に無かった。

でも僕を植えてくれたのは、貰った人への義理硬さかもしれない。

僕は子供を畑に生み落とし枯れ木となって畑に朽ちた。

でも僕は子孫を天から見つめる。

 

◆子供(二世)の成長

僕の子供は僕が産み落とした僕にとっての二世である。

次の年、二世は僕と同じに大きくなった。

ただ違うのは、今度は山を背負う斜面畑である。

日当たりも良いし、荒地を耕したばかりで栄養も良い。

二世はすくすくと伸びた。

新たに耕された土地なのでヒョロヒョロではなくしっかりと大地に張っている。

それにご主人は驚いたらしい。

二世を丁寧に集めて新たな土地に植え直してくれた。

僕の場合と違い同居者も居ないのですごく気分が良い。

集められた場所は、10坪ほどと狭いが狭いながらも我が家だ。

二世たちはすくすく育ち花を咲かせ実(三世の誕生)を作った。

この三世に最初目をつけたのは何と渡り鳥。

ある日主人が畑に来るとちゅんちゅんと忙しそうな鳥の声。

主人が目を向けると一斉に小さな鳥たちが飛び立った。

それでもちゅんちゅんと声がするので主人はこんもりとしたエゴマ畑に近づいた。

更に小さな鳥が舞い上がり、電線が真っ黒だ。

何と鳥たちの多いことか。

 

◆孫(三世)の運命

主人は三世を助けるために、急いでは鋏を取り出し三世の居るを木から剥がし袋に詰めた。

大きな袋に2杯だ。

ご主人は自動二輪でに三世を小菅から青梅に運んだ。

三世は長い間袋の中だ。

まだ青く若いのもあって袋の中はむんむんする。

ご主人は忙しく三世は放置されていた。

実は三世は畑にも一杯残った。

三世の運命、一部は渡り鳥の胃袋、1部は畑、1部は小菅から青梅へ。

青梅に移った三世は長い間軒下で暮らさせられた。

幸いにも袋の中でも実を熟させた。

そして、殻を弾き出た三世は箱詰め、殻を出れないものはゴミ袋である。

箱詰めされた三世は長く放置され、やがて運命の日がやってきた。

長く放置されたのはご主人がその処理方法が分からなかったらしい。

箱詰めする前にまずは三世を殻から飛び出させることだ。

そこでも乾燥が必要になる。

自然に飛び出た者は良いが残ったものを飛び立たせるには乾かす作業が大変だ。

飛び出したものと殻との分離も大変だ。

ご主人は100円ショップでとおしを買った。

最初のとおしは目が粗いので殻と実全部すり抜ける。

次に小さめの二種類。

一番小さいのは何も通さない。

三段階の中間のとおしが実と殻を分けてくれた。

分けられた実は瓶詰めされて青梅から千葉の南端南房総まで運ばれた。

そこの主人(ご主人のパートナー)が三世の姿、香りに感動し、料理に使ってくれたのだ。

それはそれは大事に扱われた。

でも、悲しいかな殻のまま残された三世は、殻と一緒にゴミ袋に入れられて焼却場行きだ。

 

◆孫の成長

三世の一部は畑に残された者は僕の子供(二世)と同じ運命を辿ることになる。

一段と広くなった畑に落とされた三世はやがて春を迎え、初夏には目を葺いた。

三度目の正直、ご主人も気が利いた取り計らい、三世たちを更に広い畑に植え付けてくれた。

その広さは一反以上もあろうかという勢いだ。

僕の時は一坪程度、子供たちはその10倍、孫たちはその30倍。

ご主人が耕した畑がエゴマだらけである。

もちろん、えごま畑はジャガイモ畑、その他野菜も植わっている。

でもジャガイモの次はエゴマが育つ。

ご主人はトウモロコシ、サツマイモ、にんじん、キュウリ、さやえんどう、ミニトマト、ヤーコン、ネギ、ほうれん草、大根、ブロッコリー色々共存させる。

共存できないのは雑草だけだが流石に雑草は強い。

ご主人の植える野菜をことごとくなぎ倒し雑草は成長する。

野菜の中でも我が子孫は強力である。

既に雑草に負けない子孫を残せるようになった。

残念なのはエゴマが野菜をもなぎ倒すことだ。

その中で、トウモロコシは我が子孫の次に強かった。

大きく育つトウモロコシ林の中に三世たちの1部も居た。

三世は勢いよく育ち畑を埋め尽くした。

 

◆曾孫(四世)誕生

三世の誕生には秘話が多い。

畑には大きな桑の木がある。

その木の下では日陰でエゴマといえども育ちにくい。

ヒョロヒョロである。

桑の木の下に植えられた三世は痩せこけて見るも無残である。

最初はご主人は肥料不足かと疑った。

でも落ち葉、畑の素以外は使っていないのがご主人の畑である。

それにエゴマは成長が激しいので、密集して植えると相互に牽制してやせ細る。

流石に荒地を耕された畑には栄養分が多い。

大きく成長するエゴマはどんどん背を高くする。

枝を張らずに背丈が伸びて木の先端に葉っぱが付く程度である。

それでも畑は広く、エゴマ畑が広がった。

このときからご主人のパートナーが小菅に来た。

畑には二人で来るようになった。

どうやら二人は同じ家に住んでいるらしい。

既にミツバチの大群がエゴマ畑を覆う。

エゴマが花咲けるときにその香りはたまらない。

まるで臭いの園だ。

やがて、全てのエゴマに実が付く。

曾孫(四世)の誕生である。

何故か、渡り鳥の影響が少ない。

畑が広く渡り鳥が目立たないのか、渡り鳥の数が減ったのか。

ご主人と同居人、大きなバケツを抱えての畑に入場。

二人は丁寧に大きなエゴマの木から四世が住む小さな枝を丁寧に鋏で切り取る作業を行なった。

これは三世が摘みとられたのと同じである。

四世も三世と同じにちりばらばらになる運命が待っている。

その1鳥たちの胃袋に入っていくだろう。

その2畑に飛び出したまま畑にばら撒かれる。

その3摘み捕らえた枝と一緒に主人の家に持ち込まれてダンボール詰めである。

その4ダンボール詰めされた一部は自ら殻を飛び出す。丁重に保存される。

その5ダンボール詰めされた一部は殻から出るまで衣装箱に入れられて干される。

その6ダンボール詰めされた一部は干されても殻から出れれば、丁重に保存される。

その7ダンボール詰めされた一部は最後まで殻から出れなければその1部は燃やされる。

その8ダンボール詰めされた一部は最後まで殻から出れないでその1部は畑に戻される。

殻から出たのと出ないとの選り分けは三世の時と同じにとおしだが今度は一回り大きい通しも加わった。

四世の時は三世の時と異なり効率的となる。

三世たちの運命が8方向にばらばらなのは致し方ない。

私としてはその一部が次世代のために畑に戻ってきたことを喜ぶ。

 

◆玄孫(五世)の誕生

僕が小林農園に来て五度目の初夏だ。

曾孫(四世)の中で、畑に放置されたもの、肥料として殻と一緒に畑に捨てられたものが僕の子孫を築く。

保存されたエゴマはご主人とその同居人との子供たちに振り分けられる。

でも、今度は事情が一変した。

エゴマの評判がうなぎ上りに高まった。

小菅村でも雑穀栽培には助成金が出るというのだ。

「エゴマは雑穀ですか」と役場に聞いたら返事が無かった。

改めて1ヶ月後に尋ねると「エゴマは雑穀です」と明確な返事である。

既に小菅優子農園では、エゴマの畑は拡大に拡大を遂げていた。

畑は4面、山に向かってA、B、C、D面と名づけられた。

一番広いのはD面だ。

一番小さいのはB面、僕が始めて植えられた畑である。

四世は捨てられるもの(焼却)は無く、渡り鳥、畑、そして家庭用として保存された。

いわゆる全部が利用されているのだ。

エゴマの評判が良いのでご主人にも気合が入る。

僕の子孫も世代をつなぐ条件が整った。

畑にこぼれた者、殻の中に残されたものが春を待ち初夏には目を出していくのだ。

A面はジャガイモ畑として最近開墾されたものだ。

B面は開墾される前はコンニャクイモが一杯あった。

僕が来たころには、ヤーコンが全盛期だったころだ。

C面はこの畑郡で最初に開墾された。

だから栽培される野菜は多種多様である。

僕と同じように世代を受け地で居るのはミニトマトだ。

ミニトマトは熟して実を落としたものが次世代に繋がる。

この子孫は僕よりは4年早い9年前から続いている。

ご主人自慢の伝統種だ。

D面も最近開発されたばかりだが、主産物はジャガイモである。

そして、当然僕の子孫が根付いている場所である。

この時期から、ご主人の同居人が犬に引きを連れてきたので、畑の番を始めた。

ジャガイモを食い散らかす猿対策である。

確かにジャガイモはA面を1部荒らされたが、大きな被害ではなかった。

ところが、A面のエゴマが猪にやられた。

元々猪が子供を育てていた荒地だったが、ご主人が開墾してしまった。

猪は行き場を失い、時々餌を求めてやってくる。

エゴマを植えつけた畑をミミズを求めて穿り返すので、被害が広がった。

それでも手当ては早く被害は最小限に食い止めた。

隣村の5人家族がエゴマの植え付けを手伝いたいとして小菅村に来てくれた。

どういう切っ掛けかは分からない。

この四世から五世が誕生した。

もう畑の風景は何時もの落ち着いている。

エゴマの背が伸び、花が咲き、ミツバチを中心としてあらゆる昆虫が舞い、実がなり、そして渡り鳥とか、鳥が舞う。

五世は親たちと同じに一部は弾いて畑に落ち、一部は刈られてご主人の家に持ち帰られる。

今年は運びはビニール袋、落ちつ先は段ボール箱の中だ。

それから、何時もの如く、小さい枝を払い、干される作業が繰り返される。

そして、とおしによって選り分けられる。

殻から出れないものは再び畑に持ち帰られる。

殻から出れたエゴマは大事に保管されて多くの人々の食卓に上る。

栗ちゃんという福生の店、小菅の道の駅色々の替われて運ばれる。

その祖先である僕も偉くなったと言うものだ。

 

◆エゴマの評判

そろそろこの独り言も終わりに近づいている。

エゴマの効能がテレビや雑誌で報道されて、引っ張りだこなのだ。

小菅の田舎にもその余波が来た。

エゴマ人気、ブームの到来である。

六世の一部は、福生の栗ちゃんという運び人に多摩川の下流に運ばれて多くの人の口に入る。

その他の一部は小菅村の道の駅で観光客に買われている。

道の駅でのヒット商品がエゴマだとニュースである。

一挙に小菅村のエゴマが多摩川下流域に広がった。

ご主人のところには電話やメールがじゃんじゃん。

その1部、隣村の5人家族がエゴマの植え付けを手伝いたいとして小菅村に来てくれた。

村人にも噂が広がる。

来年は植えたいと話す村人が居る。

僕から見れば、子孫が延々と継承されると言うことだ。

 

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