7.5 憲法改正の必要性と第96条憲法改正手続きの改正案  2017415

 

■現行 第九十六条          

この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。

 この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行われる投票において、その過半数の賛成を必要とする。

 憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。

 

7.5.1 憲法改正手続きを改正する理由

 201735日の自民党大会で、安倍首相は「憲法改正の発議に向けて具体的な議論をしていく」と発言した。

 憲法改正を発議するためには、憲法改正原案を国会に上程する必要がある。それは、衆参両議院の憲法審査会が作成する。憲法審査会は、与野党各会派の所属議員数の比率によって構成される。

憲法改正原案は、国会議員の一部集団の協議によって作成されるのだ!!

憲法審査会の「憲法のひろば」には、「日本国憲法について広範かつ総合的に調査を行うに当たり、その参考に資するため、広く国民のみなさまのご意見をメール・ファックス・封書・葉書により受け付けております。」と書いてある。

わたしは、憲法改正原案を作成する制度・手順について、主権在民の視点から根本的な疑問をもつ。この疑問が、第96条を改正する理由である。

 

◆根本的な疑問

国民の意見をメール等で憲法審査会に届けることに、主権在民の制度としてどのような意味があるか?

国民主権の理念と民主主義を実現する制度との間には、大きなギャップがある。ネット社会に適応した政治システムの設計に、もっともっと人類の英知を結集できるはずだ。憲法に対する国民の意見を、総合的に収集する憲法改正手順を導入すべきである。 

 

②民意を十全には反映していない小選挙区比例代表制で選ばれた国会議員が、政権与党主導により憲法改正原案を作ってよろしいのか?

国民の代表者を選ぶ現行選挙制度と政党政治システムには、重大な欠陥がある。立候補した政治家個人への投票選挙だけでなく、政策案投票と議員選挙を組み合わせた政治システムへ、統治機構の憲法改正をすべきである。

 

現実の国会議員が、国家最高の法規範である憲法条文を規定する知性・理性・品性を有しているか?

→国会議員の一部集団が、日本人の最高の英知を代表しているとは思えない。憲法改正原案を作成するという重大な任務を果たすためには、高度な知性・理性・品性を有する有識者・専門家等の英知を結集できる憲法改正手順を導入すべきである。

 

◆憲法第96条を改正する理由

国民の基本的人権を保障し、国家権力をしばる「国家最高の法規範」である憲法を定める権能は、「国家最高の叡智」でなければならない。

 だが、現実の国会議員の諸党派が、「国家最高の叡智」集団とは、わたしには思えない。

憲法を定める叡智は、①国内統治*②国際外交*③世界/自然という多元的な領域を対象とする「知性―理性―品性」を有する人類知の総体でなければならないと考えるからである。

知性→自然、生物、人間、社会、国家、歴史に関する事実認識、知識

理性→知識の相互関係、帰納と演繹、法則性、推論、因果の判断、洞察

品性→知性と理性を抑制する道義心、倫理、価値観

 

7.5.2 憲法改正手続きの改正私案

◎第96条 改正私案

 この憲法の改正は、以下の手続きに従う。その詳細は、法律で定める。

1 国民会議は、憲法改正の必要性と改正条文案を国民から随時取集する。

2 国民会議は、収集した改正条文案を整理して憲法会議に提出する。

3 憲法会議は、提出された改正条文案に基づき憲法改正草案を作成する。

4 憲法会議は、憲法改正草案の各条文に対する国民の賛否を問う世論調査を行う。

5 憲法会議は、世論調査の結果を整理して憲法改正草案を作成し、憲法調査会に提出する。

6 憲法調査会は、提出された憲法改正草案を尊重して憲法改正原案を作成し、国会に上程する。

7 国会は、憲法改正原案について各議院の総議員の三分の二以上の賛成によって、国民投票を発議し、その承認を経なければならない。

8  この承認には、その過半数の賛成を必要とする。

9 承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。

 

◆憲法改正の制度と手順

 国民 → 国民会議 → 憲法会議  → 憲法審査会  → 国会 → 国民投票

   必要性と条文案 → 憲法改正草案 → 憲法改正原案 → 発議

 

7.5.3 憲法改正手続きを改正する前提条件 ~六権分立

96条の改正私案は、「国民会議」と「憲法会議」という現存しない国家機関の設置を前提とする。この機関は、7.4.5の第14条改正案で考察した「立法前野」と7.4.6の第15条改正案で考察した「主権在民の民主主義」を実現する国家権力機構である。

◎第14条改正私案 国民の権利を主張する機会の提供

天皇をのぞくすべての国民の基本的人権は、平等である。

国民は、立法その他の国政において、自らの権利を、直接および間接に主張する機会が与えられる。   

◎第15条改正私案 国家権力と公務員

国家は、国民の権利と義務を遂行するために、国家権力を組織する。

国家権力は、国民会議、憲法会議、国会、行政、司法、地球警察の六権分立とする。

国家権力を行使できる資格と能力を有する者を公務員とする。公務員たる要件は、法律でこれを定める。

 

◆主権在民を実質化する六権分立

◎主権者

 ①意見、要望 国内政策提案 国際政策提案 ←国民、専門家、学者、政治団体、市民運動

↓                ↓   ◎知識人

 A:国民会議 ➡ 叡智集団選挙 ➡ B:憲法会議 ←知性・理性・品性

↓             ↓

↓         ③政策案、 憲法改正草案 ←専門性、整合性、公平性

④議員・公務員選挙           ↓

◎公務員  ↓      ⑤国内政策実施 ↓ ⑥国際政策実施 

    C:立法議会 D:行政府 E:司法裁判所  F:地球警察隊 

 

A:国民会議

国民会議は、「国民の政治参加」の視点から、マスコミ各社が実施している世論調査や5年に一度の国政調査を、ネット社会環境に適応して制度化するイメージである。国民会議の権限は、税金を財源として国民の意見を収集して整理することだけに限定する。政府の主張を広報宣伝する機能は有しない。

①日本の政治に関心をもつものは、だれでも意見・提案・献策を表明できる

②事務局が、有象無象・種々雑多・玉石混交の膨大な意見を整理する

③社会的事実→問題定義→解説→複数の政策案=「制度・法律・財源」案を編集する

④事務局が、複数の政策案・選択肢を国民に提示し、上の①と③をくりかえす

⑤必要な時期に「国見の声」として複数の政策案を憲法会議に提出する

 

B:憲法会議

憲法会議は、内閣法制局や最高裁判所の違憲審査機能と民間の政策提言シンクタンクや有識者・専門家等を、テーマにそって結集する機関イメージである。日本は、鎖国国家ではなくグローバル社会の一員であるのだから、「憲法会議」には日本国民だけではなく、ひろく海外からも人類の叡智を集める。

①憲法会議の議員は、専門分野ごとの有識者が自薦他薦で立候補して、全国区の国民投票で選ぶ。

②国民会議から提出された複数の政策案を総合的に「専門性―整合性―公平性」の視点から審査する。

衆参両議院の選挙の時、立候補者は憲法会議が開示した政策案集合に対して賛否と優先順位を表明して、選挙運動を行う。

憲法改正が必要と判断した時、憲法改正草案を作成して国会に提出する

 

7.5.4 憲法改正問題を報道するマスコミ各社へ要望する

上記の憲法改正私案は、「憲法改正手続き条文の中に他の条文の改正を含む」という相互参照の自縄自縛のデッドロックに陥る。この事態を解消するためには、存在しない「国民会議」と「憲法会議」の先行形態を、一種の社会実験として試行する必要がある。

そのために、「憲法改正条文を憲法審査会に提出する国民運動」として、政治ニュースを報道する新聞社とテレビ局の報道各社へ、以下の試行実施を要望する。

 ①憲法改正および護憲に関する国民の意見と改正条文案を収集する

②収集した国民の意思を憲法改正草案に整理集約して公開する

憲法改正草案の条文ごとに賛否を問う世論調査を実施する

④その調査結果を反映した憲法改正草案を憲法審査会に提出する

⑤憲法審査会の協議状況を取材して報道する

自民党の安倍政権は、行政権力による国家統制を強化する憲法改正をめざす。改憲運動を強力にあと押しするのが、「日本会議」を中心とした保守系民間諸団体である。リベラル・サヨクの弱小野党は、改憲反対の護憲一点張りである。

国民それぞれは、政治に関心はなくとも、それぞれの立場で問題意識をもって意見や要望をもつ。学者や評論家や専門家や現場実務者もそれぞれ様々な意見や批判や提案を発信する。だが多くの国民の政治的表明と為政者である政治家や行政官僚との間には、大きな壁がある。情報が氾濫するネット社会に政治システムが適応していない。

主権在民を実質化する民主主義の根幹は、国民の声を手軽にいつでも受けつける国民の意見収集システムの永続的な再構築と運営評価ではないか。 

主権在民を実質化する国民の政治参加の訓練場として、「憲法審査会に憲法改正草案を提出する国民運動」の実施を、NHKをはじめとしたマスコミ各社に要望したい。

 

①国民の意見、要望、提案など

 国民会議 意見収集システム ◎国民の声ホームページ

 ↓

②有識者の政策案、立法案、財源案など

 憲法会議 政策立案システム 政策案ホームページ

 

 

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