6.2 憲法改正にむかう思想   2016610

 

1)社会問題→だれがどのように解決するのか?

現状に満足して、安全・自由・幸福に生きる者には、社会問題など意識されない。不満があっても「仕方ない」と了解する者は、社会問題には関与しない。安全・自由・幸福が阻害されている他者に関心をよせない者には、社会問題など存在しない。自分の自由が束縛される奴隷状態であっても、その現状に抵抗心をおこさず、あきらめて日々の生活をすごす者にとっては、社会問題など意識できない。

社会問題は、自分および他人が、それぞれに安全・自由・幸福を追求する欲望と社会条件の関係性において発生する。社会問題は、個人と社会との関係性である。

個人の欲望・意識}✕{社会的条件}➡{行動選択}➡社会問題群

 

20166月、夏の参議院選挙において、国民が国家に解決をもとめる社会問題群は、①景気・雇用、②社会保障・福祉、③教育・子育て、④外交・安全保障、⑤消費増税などである。

わたしの問題意識は、個別の問題の中身ではなく、これらの社会問題を解決するための思想とシステムである。

社会問題といわれることがらの、そもそも何が、なぜ、だれにとって問題なのか?

だれの問題を、だれの責任で、どのようなシステムで、解決するのか?

問題を解決する政策立案→制度設計・立法・財源は、現状どうなっているか?

問題提起から問題解決までのプロセスに、国民の意見と知恵が結集されているか?

この問題意識は、憲法を最高法規とする立憲主義、民主主義、三権分立、衆参議員の選挙制度、公務員制度などの戦後の社会思想と政治制度にむかう。

◆日本国憲法の思想と政治制度は、急激に変化をとげる現代社会の諸問題を解決するために、差異の多様な国民の意見と知恵を結集できるシステムなのか?

 

2)社会問題にとりくむ政治体制の現状

安倍首相は、「国民の命、安全を守ることは政府の責任であり、その最高責任者は私だ」という。2016年、安倍内閣は「一億総活躍社会プラン」の作成を発表した。

「我が国の構造的な問題である少子高齢化に真正面から挑み、「希望を生み出す強い経済」、「夢をつむぐ子育て支援」、「安心につながる社会保障」の「新・三本の矢」の実現を目的とする「一億総活躍社会」に向けたプランの策定等に係る審議に資するため、「一億総活躍国民会議」が設置されました。」

この国民会議は、総理大臣を議長として、関係大臣11名と有識者・専門家15名で構成される。事務局の首相補佐官と官僚たちが会議をとりしきる。

これは、たんなるひとつの事例にすぎない。社会問題にとりくむ政治体制の現状とその問題点については、つぎのようにすでにくりかえし記述してきた。

国家権力の中枢は、「内閣+首相補佐官+官僚+有識者・専門家」である。

政策立案は、「官高政低」という行政主導である。

立法議会の軽薄化行政権力の肥大化という「2.5権分立」である。

選挙制度、政党政治、議会制度の現状は、「主権在民」の憲法の形骸化である。

国民のおおくが、未来の日本社会に希望をもてない。

無党派層が、有権者の4割近くをしめる。

選挙の投票率は6割以下、代表制民主主義の制度が病理的な欺瞞症状を呈している。

個人主義と国家主義を両極とする憲法は、「理性の狡知」といえる事態になった。

 

3)政体を変革するための憲法改正の提案→「権分立」

「主権在民」を実質化するために、A:「国民の意見・要望・社会問題の提起」プロセスとB:「社会問題→政策(制度設計・法案・財源案)を立案する」プロセスを制度化する。

「政治家・議員を選ぶ」選挙制度を、「政策案に投票する」選挙制度に変革する。

憲法改正による権分立」の政治プロセスをつぎのように提案する。

・・・・・・・・

①国民 庶民、町衆、市民、政治家、社会運動家、評論家、専門家、学者、ジャーナリストなど

A:意見、要望、提案などを提示する → A:国民会議 

                 ↓ ↑   

②有識者・専門家              B:憲法会議 ←テーマごとの審議集団

B:国民会議に集約された国民の意見を反映して複数の政策案を作成する

  政策案(制度・法案・財源案)  憲法改正原案 

      ↓

   ◆選挙制度 政策案への投票 ←大きな基本政策ごとの選挙投票

                     

政治家・公務員 → C:立法議会 D:行政府 E:司法裁判所  F:地球警察隊 

・・・・・・・・

日本国民にかぎらず世界中の人々が、さまざまな意見や提言を、ネットや雑誌や新聞や専門書や論文で発表している。さまざまな団体や地域が、「世の中をよくする」活動を実践している。

これらの意見と諸活動を、国家政策に気軽に恒常的に反映できる国家をめざす。

高度情報技術(IT)により国内外の意見を収集し、ビッグデータ解析、人工知能、シミュレーション技術を駆使して複数の政策案を作成し、その政策案を選挙制度で選択する。

 

4)憲法改正がめざす国家像

個人の自立―共同体の相互扶助←―国家主権―→国境なき地球警察隊

 歴史的につくられた「国民国家」主権を絶対視する国家思想を問いなおす。

国家主権を相対化する世界をめざす。

個人の「生命・安全・幸福」にかかわる「国家」機能を、「個人―社会―国家―自然」=「私―共―公―天」の関係性において相対化する。

「国民の命、安全を守ることは政府の責任であり、その最高責任者は私だ」という「社会と国家を一体化する」国家権力者の言明を、つぎのように相対化する。

私:「自分の命、安全を守ることは自分の責任であり、その最高責任者は私だ」

共:「自分たちの命、安全を守ることは自分たちの責任であり、その最高責任者など不要だ」

天:「人間の命、安全は自然のはたらきであり、人間の最高責任者は自然の摂理だ」

個人の「生命・安全・幸福」を阻害する要因は、「個人―社会―国家―自然」それぞれにある。人災と天災だけでなく「国災」(国家権力の横暴、抑圧)もある。

「自己責任―共同責任―国家責任」をさだめる憲法改正により、自由で差異の多様な個人が「生命・安全・幸福」を追求できる国家像をめざす。

◆「個人―社会」関係と「国民―国家」関係を明確に区別する国家像

 

5)憲法改正にむかう権利思想の変革

◆人権の分譲→ 共同体の民権 ←国権の移譲→ 国際法への分権

日本国憲法の権利思想

 第12条      

この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。

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すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

 

日本国憲法の権利思想への違和感

 自然―人間{(個人・社会)*(国民・国家)}という世界のひろがりからみて、わたしは日本国憲法の思想に、つぎのような違和感をもつ。

生命、自由及び幸福追求は自然な人間の欲望であり、国民の権利とは次元がちがう。

個人は、国家に保障される国民でなくとも、社会人として生きていける

③公共の福祉を「公」国家福祉と「共」社会福祉に分離すべきである

 

◆憲法改正にむかう権利思想→人権の保障を国権だけでなく民権にもゆだねる

日本国憲法の思想基盤は、人権尊重の個人主義・民主主義と主権在民の国家主義・立憲主義である。

日本国憲法が想定する「国家像」は、多様な{個人・社会}を(国民・国家)に一体化して、国家が社会を包摂する中央集権の統治体制であり、官僚制国家である。

日本国憲法が想定する「人間像」は、キリスト教神学に対抗するために西欧近代思想がつくりだした理念的すぎる「個人尊重」人間観にもとづくものである。

この国家像と人間像は、「自然と人為」―「個人の自由と国家の秩序」の世界観の次元で根源的な矛盾をはらんでいる。

日本国憲法が想定する国家像と人間像では、科学技術文明がもたらしたグローバルにひろがる差異の多様な現代社会の諸問題に対応できないとかんがえる。

国内統治に閉じた主権国家は、グローバル資本市場を制御できず、核兵器も廃絶できず、防衛軍事費の膨張を阻止できず、たえず戦争の恐怖におびえているからである。

西欧近代思想に基盤をおく日本国憲法の改正にむかうために、明治時代に西洋から輸入した思想・哲学の翻訳語を卒業して、縄文人を源流とする日本風土で近代思想を咀嚼し、もっと日本人の語感になじむ、人間像と国家像の思想改革を提案する。

市民から庶民へ

社会から世間へ 

◎国民から町衆へ

◎国家から国邦へ

 

6)憲法改正にむかう実践

社会問題は、国家の公共事業だけで解決できるものではない。経済成長による「税収の増大→富の分配」だけが唯一の解決策ではない。

個人と社会の「生命・安全・幸福」は、日本列島においてむかしから「租―庸―調」、「結―講―座」、「労力―現物―金銭」などの組み合わせで追求してきた。

社会問題の現実的な解決策は、「自助―互助・共助―公助」の多重システムである。

: 自助 個人 人生システム(少→壮→老) 

生命欲望(身心頭)*社会的諸関係*外部環境{他者}/自然

少/学業期の社会問題・・・教育・子育て  社会→学校

壮/職業期の社会問題・・・景気・雇用   社会→職場

老/終業期の社会問題・・・社会保障・福祉 社会→地域

: 社会 共助 {個人}集合、集団、組織→{個別社会システム}群

集団目的{人間関係}*社会的諸関係*外部環境{社会、国家}/自然
◎ひとつの社会集団は、他の社会集団と重層交差する。

◎ひとりの個人は、いくつもの集団に属し、ことなる社会的役割をもつ。

: 国民 公助{国民}集合、特殊社会集団→ 国家システム=特殊社会システム

国家主権{国民、領土}*社会的諸関係*外部環境{社会、世界}/自然

国家が、国民と企業等から税金を徴収して政府の公共事業で問題を解決する。

◎「国民―国家」の関係は、特殊な「個人―社会」の権力関係である。

: 人間 生物 自然 {私、共、公}全体 →全体はシステムにあらず

人為をつくして天命をまつ。「天網恢恢疎にして漏らさず」、「天」に祈る。

 

日本各地でNPOや住民組織による「相互扶助」活動や社会問題を解決するソーシャルビジネスの活動がひろがっている。わたしは、これらの運動がゆるやかに連帯して、憲法改正運動にむかう潮流をつくりだすことに希望をもつ。

 

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