5.5 「六権分立」の憲法改正にむけて「国民会議」設立を準備する  2016512

 

■問題

個人(社会人(日本国民))という入れ子構造の生活世界で、その個人は「有権者―選挙投票―議員―政党―国会―行政―公務員」という政治プロセスに、どのようにかかわるか?

主権在民と三権分立をかかげる憲法の理念は、代表制民主主義・政党政治・選挙制度・国会議員の資質・国会審議などの現実と、そのギャップはあまりにおおきいのではないか。

「国家政策を立案する」国民行動と「国家権力を行使する」政治活動とを分離する仕組みが必要ではないか。

 

1)「主権在民」の現状

 20165月の朝日新聞の世論調査。夏の参院選の投票で重視する政策の優先順位は、つぎのとおり。

 ①景気・雇用 ②社会保障・福祉 ③教育・子育て ④外交・安全保障 ⑤消費増税

 ⑥震災復興  ⑦憲法

 これらの政策について、期待できる政党の割合は、つぎのとおり。

 ①景気・雇用    自民党;41%  期待できる政党なし;33%  野党;26

 ②社会保障     自民党;26%  期待できる政党なし;35%  野党;39

 ④外交・安全保障  自民党;45%  期待できる政党なし;32%  野党;23

⑦憲法       自民党;29%  期待できる政党なし;37%  野党;34

一般論として、政権政党に期待したほうがいい、少数派の野党には実行力を期待できない、権力者にすりよるほうが得、という常識的な判断は理解できる。

それにしても「期待できる政党なし」が、野党全体の期待合計とほぼ同じである。「期待できる政党なし」の有権者は、どのように行動すればいいのか?

 

2)根本的な問題

そもそも国民が要求する国家の「政策」は、「国民―有権者―選挙投票―議員―政党―国会―行政―公務員」という政治プロセスにおいて、どこでどのように決定され、どのように実行されるのか?

民主主義国家の「主権者」である国民は、そのプロセスにどのように関与できるか?

政策の実行は、あきらかに行政の仕事である。公務員という職業の特定の国民が、政策を実行する。その執行機関は、つぎの中央政府と都道府県・市町村の地方政府である。

内閣財務省法務省国家公安委員会警察庁)、総務省文部科学省国土交通省復興庁環境省厚生労働省農林水産省経済産業省外務省防衛省

これらの行政機関は、税金と借金を主たる原資として公共事業を実施する。その公共事業の根拠となる「政策」の決定過程は、つぎのように図式化できる。

①政治家が、国民のさまざまな意見や要求をあつめる

②政治家と政党が、「政策」案を選挙公約・マニフェストとして公表する

③有権者は、選挙において議員候補と政党に投票し国民の代表をえらぶ

④国会において、議員が各政党の「政策」案を審議し多数決で決める

⑤国会は、決定された政策について「制度・法律・財源」を文書で明示する

⑥政府は、年度ごとに実行する政策に優先順位をつけて、予算をたてる

⑦国会は、政府が実行する予算を承認する

⑧政府が、予算の範囲内で政策を実行する ――>国民が福利を享受する

 

◆政策:「国民のさまざまな意見・要求」 「制度・法律・財源」➡ 要求の実現

この政策立案プロセスにおいて、現実の政治状況は、政権政党ですら有権者の支持は半分以下でしかない。「期待できる政党なし」の有権者は、全体の3割をしめる。どの野党も、期待される割合は1割以下である。

政治家と政党をえらぶ「代表制」民主主義には、根本的な欠陥があるのではないか?

政党政治は、「主権在民」の理念を実現しうる合理的なシステムなのか?

国会を国権の最高機関とする憲法には、根本的な問題があるのではないか?

 

3)政策決定の具体的な問題点

①政治家が、国民のさまざまな意見や要求をあつめる
政治活動に金がかかりすぎる。非効率である。政治家と積極的に接する有権者はすくない。国民が自分の要求を政策立案者にとどける手軽な仕組みがない。国民の意見・要求・提案など玉石混交である。

②政治家と政党が、「政策」案を選挙公約、マニフェストとして公表する
どの政党の選挙公約も、目標をかかげているだけである。実現可能な制度設計・法案・財源案のレベルではない。過去から続いている現実の膨大な事業との整合性を無視する非現実的な公約もおおい。ほとんどの有権者は、政党の公約をたんねんに比較衡量して、投票するわけではない。

③有権者は、選挙において議員候補と政党を投票する
投票する人は、支持する政党であってもその政党の公約すべてに賛成しているわけではない。有権者は、政策ごとの投票はできない。小選挙区比例代表という選挙制度には、おおくの欠陥がある。

④国会において、各政党の「政策」案を審議し多数決で決める
国会議員による審議のほとんどは、政権与党案にたいする賛成と反対の発言だけである。少数野党の意見も反映するために、妥協と修正をくりかえしながら、政策を練りなおすという討議プロセスとはほどとおい。政策を実現する「制度・法律・財源」案は、ほとんど官僚主導+有識者会議で実質的に準備される。

 

4)問題解決への提案 ~「六権分立」の憲法改正

◆政策立案能力と政治能力の分離

国民のさまざまな意見・要求をうけて「制度・法律・財源」レベルの政策を立案するには、きわめて高度な知性・理性・品性をそなえた能力を必要とする。政策立案能力は、国家権力をかくとくし、政策を実行する権力闘争を勝ちぬく政治能力とは次元がことなる。

だから「国家政策を立案する」国民行動と「国家権力を行使する」政治活動とを分離する仕組みが、必要ではないか。

複雑きわまる現代社会において、差異の多様な国民が期待する「景気・雇用、社会保障・福祉、教育・子育て、外交・安全保障、消費増税、震災復興」などの「制度・法律・財源」は、それぞれ単独ではなく、相互に密接に関連している。

政策立案は、対象領域の専門性を必要とする。政策立案は、他の政策との整合性を必要とする。政策立案は、受益者である国民にとって公平性を必要とする。

立案すべき政策は、過去→現在→未来(短期→中期→長期)時間軸を視野にいれなければならない。ローカル・ナショナル・グローバルの空間軸を視野にいれなければならない。

ひとつの政党の公約が、すべての国民の支持をうけることは、ありえない。ありえるとすれば、それは独裁政治である。政権交代可能な二大政党制という政治理論の妥当性は、民主主義の先進国でもすでに破たんしている。

だから、政策立案活動と権力行使活動を分離する民主主義政体を考究すべき時代となったのではないか。

 

◆種々雑多な庶民と種々雑多な知識人

民主主義、「国民が主役」、「主権在民」とはいえ、すべての国民が国家の政策にたいして、関心をもって意見や要求をもつわけではない。一部の国民が政策に関心をもったとしても、賛成か反対か、好きか嫌いか、言いたい放題、書きたい放題がおおく、「制度・法律・財源」レベルの提案はかぎられる。関心や意見があっても、なにも発言しないのも個人の自由である。

だから種々雑多な国民の要求に対応する国家政策の制度設計、法案作成、財源手当ては、高度な専門性をもった「知識人」の仕事となる。

「知識人」といえども庶民とおなじく種々雑多である。「価値志向型知識人」と「政策志向型知識人」という対比がある。反体制、批判、問題解釈、原理論、理想論、学術的、思弁的などの「知識人」から体制派、提言、問題解決、応用論、現実論、行動的、実際的などの「知識人」まで多様に分布する。

では、「主権在民」の民主主義をよりよく実現するために、種々雑多な庶民と種々雑多な知識人は、どのように分担するか。

分担を権力分散とみなして、「六権分立」の憲法改正を提案する。制度改革のポイントは、「政策立案」と「政治活動」を分離すること。実現ポイントは、高度情報技術~インターネット、ビッグデータ解析、人工知能推論、シミュレーションなどを活用すること。

 

◆政策立案

A:国民会議

①日本の国策に関心をもつものは、だれでも意見を表明できる仕組み

②事務局が、有象無象・種々雑多・玉石混交の膨大な意見を整理する

③社会的事実→問題定義→解説→複数の「制度・法律・財源」案を編集する

④事務局が、複数の政策選択肢を国民に提示し、上の①と③をくりかえす

B:憲法会議

①複数の「制度・法律・財源」案を総合的に評価できる「知識人」の合議体

②国民投票で憲法会議の議員をえらぶ ←「知識人」たる人物が自薦他薦で立候補

③国民会議から提出された政策案を「専門性―整合性―公平性」の視点から審査する

④必要な時期に憲法改正の原案を作成し、立法議会に提出する

◆政治活動

C:立法議会 D:行政府 E:司法裁判所 F:地球警察隊

①国民は、政策を実行する幹部層公務員を選挙でえらぶ

②その立候補者は、国民会議から提出された複数の政策案に意見を表明する
*選挙制度の改革と新しい政治活動スタイルの創造→高度情報技術社会への適応

③立法議会において、政策=「制度・法律・財源」を決定する

 

◎主権者

 ①意見、要望 国内政策提案 国際政策提案 ←国民、専門家、学者、ジャーナリストなど

↓                ↓   ◎知識人

 A:国民会議 ➡ 叡智集団選挙 ➡  B:憲法会議 ←知性・理性・品性

  ↓                 ↓

 ③政策案・法案・財源案、 公務員選挙、 憲法改正原案 ←専門性、整合性、公平性

 ↓              ↓

◎公務員   ↓ 国内政策        ↓国際政策 

   C:立法議会 D:行政府 E:司法裁判所  F:地球警察隊 

 

5)「国民会議」設立準備委員会をたちあげる

 「おおきな見とおし、小さな一歩から」ということで、以下のようなステップを想定する。

①有志があつまり「国民会議」設立準備委員会をたちあげる
インターネット、ビッグデータ解析、人工知能推論、シミュレーション等の技術者が中核

②身近な問題をテーマにした世代間意見交流会を全国各地でひらく

少/教育・子育て、壮/雇用・仕事、老/社会保障・福祉

*世代間交流 →「人生・社会・国家・自然」塾と各種イベント開催 →政治教育

③各種の学生団体、ボランティア団体、企業などに協力参加をよびかける

④新聞社、マスコミ、NHKなどの世論調査を集約・分析する仕組みをつくる

⑤「主権在民」の政治教育をおこなう「国民政治教育センター」設立をめざす

⑥「国民会議」設置基本法案を作成して、国会の憲法審査会に提出する

 

以上  No5.4    No.5.6