20稿 「腸閉塞再発によりPS療法から2次治療PTX療法へ、そして在宅療養へ」 201488

目 次

1.      SP療法8クール目開始から治療中止までの経緯

18クールの治療経過

2.再発腸閉塞の治療と現状

1)再発腸閉塞の治療と原因究明

 2)主治医小松医師とのIC77日夜)

 3)腸閉塞の原因が癌増殖によると判断した理由

3.セカンドラインPTX療法

 1)パクリタキセルとは

2)パクリタキセル療法

 3)パクリタキセルの副作用

4)   パクリタキセルの薬価について~ジェネリック品の薦め~

5)   パクリタキセルへの期待感

4.在宅医療の受け入れ

1).私自身の在宅医療の活用

2)退院時の北大、そよ風共同カンファレンスの記録

 3)在宅医療に至った動機・背景

5SP療法からPTX療法に移行するにあたっての私見

1)抗癌剤治療の効果の判定とその後の治療

 2)抗癌剤治療の問題点

3)抗癌剤承認の現実

4)期待される分子標的薬

 

626日にイレウス再発で緊急入院し、1ケ月の入院を経て、726日に退院・帰宅しました。その間は発熱、激痛に見舞われ、原稿を書く事さえ出来ず、やっと8月に入って、第20稿を書き始める始末です。

 

1.    SP療法8クール目開始から治療中止までの経緯

1)8クールの治療経過

 6月早々名古屋地区の高校の同級会に家内と出かけた。楽しい2日間であった。3日に北大外来で採血し、5月13日よりティーエスワンを休薬していた事で白血球は3,700、好中球は1,510と回復した。ティーエスワン12日間服用後の入院(5.12.)前日の白血球は2,700、好中球は959であり、これまでのシスプラチン点滴靜注時のパターンであり、実際にSP療法を実施できたのは8クール中4クールであった。いずれも白血球・好中球がシスプラチンを点滴静注できる条件の数値を満たさなかった事による。主治医の小松先生は5月末から63日までシカゴのASCO(米国癌治療学会)に参加していると言う事で、今回福島医師が担当した。スケジュール的には8クール目は612日の入院予定であったが、12日に老水庵、庵主の木ノ下大兄に来道すると事前連絡を頂いたので、治療開始が1週間遅れたからと言って効果に差異はないと医師の判断を頂いたので、入院を1週間先の617日に延ばしてもらった。病院でお会いする事は、病気見舞いの儀式みたいで、院内での面談は辛気臭いので、というより折角の事だから一杯飲みたいのが人情と言うものでしょう。63日の白血球数3700、好中球数1510616日の入院前日の血液検査(ティーエスワンは従来の100㎎を80㎎/日に減量し、11日朝より服用開始)では白血球数3600、好中球数1688と安定しており、17日より入院し8クール目のSP療法を常法通りにハイドレーションを開始し、18日に、シスプラチンを90㎎から70㎎/日に減量し、点滴静注を行った。北大での治療は上手くいき、予定通り624日に退院し、残りの1週間ティーエスワンの内服で8クールは完遂出来るはずであった。しかし、帰宅後2日目の25日夜より腹痛が始まり、翌日は激痛に変わり、急遽、北大病院に行き、検査したところイレウスの再発が確認され、緊急入院となった。入院当日、残り1週間のティーエスワンの服薬は中止となった。長く続けてきた胃癌の標準療法であるSP療法が終了したことになる。SP療法の効果が無かった事でつくづく癌治療の難しさを実感させられた。よくよく考えれば癌細胞とは言え、我が身の内の細胞であり、我が身を守る免疫機構が癌細胞を異物として認識出来ないのであろう。抗癌剤は癌細胞だけでなく正常細胞も無差別に死滅させようと働くが、盛んに分裂・増殖する癌細胞はますます自己免疫力を弱め、分裂の盛んな毛根や小腸の細胞まで攻撃してしまうようだ。

2.再発腸閉塞の治療と現状

1)再発腸閉塞の治療と原因究明

626日の入院時体重は51.05kg、身長167.3cmであった。その日より絶食水が始まり、油断した事もあるが27日未明トイレで転倒し、輸液ポールが倒れた時の床との打撃音がけたたましくて、私も頭をしたたかぶつけて、看護師、脳外の女医も駆けつけ、迷惑をかけてしまった。夜が明けると看護師、医師にこの事実が知られ有名人になっていた。治療はひたすら絶食水が続き、定期的にX線撮影、CT、ストマから内視鏡にて食道腸管撮影をして、腸閉塞の原因を解明する検査が続いた。途中より水の飲用が許され、缶コーヒーも追加され、日頃なんとも思わなかったものがとても貴重で美味しかった。残された望みは食事が出来る様になる事である。腸閉塞に伴い、食事は出来なくなり栄養補給は中心静脈栄養に頼っている。ストマへの排液(糞便)の排出能力が著しく減退したこと、腸の排液・ガスが腹痛の一因と判断し、内視鏡カメラで確認しながら、鼻からイレウス管を230cm大腸部分に留置した。腸からの排出量が少ない時、腹部の張りが強い時、腹痛がある時は、その都度50mlシリンジにて三方活栓を用いて用手的に腸排液の吸引を行っている。

輸液調整や排液回収については入院中に指導を受け退院後も家内、私で問題なく管理できている。最も注意を払っている事は「清潔操作」であり、そのことを家内は十分理解して看護師並みの能力を発揮してくれ、随分助けられている。

吸引に使う黄色いシリンジは1週間毎に交換し排液パックは1カ月に一度交換する事になっている。

2)主治医小松医師とのIC77日夜)

 腸閉塞の原因が完全とは言えないが状況的に播種によると総合的に診断確定出来たとして、主治医小松医師より私の治療経過及び現状の問題点、今後の治療について説明があった。これまでのCTでは経過は良好であったが、626日、腹痛で来院し、CTで確認した結果腸閉塞の状態になっていることが確認され、イレウス管ロングチューブを挿入した。74日に造影を行ったが、大腸が狭くなっている事が判明した。イレウスの原因は癒着か、癌細胞の播種によると考えられ、これまで用いてきた再発胃癌の1次治療であるSP療法(ティーエスワン+シスプラチン)の効果が無くなってきて、癌細胞が増殖してきた可能性が高いと判断した。イレウス管からの排液量が未だ多量の為、イレウス管の抜去は現状では難しく、他の患者の例を考えても抜去する事はパクリタキセル点滴でも困難と思われるが、私の場合、未だ腹部に病態が限定されているのでパクリタキセルによって癌細胞が減少していけば、抜去の期待感はある。しかし、現状では、食事も困難で、完全静脈栄養を食事の代替として考えていくしかない。その為に出来るだけ早いうちに2次治療としてパクリタキセルの点滴靜注を実施したい。併せて緩和ケアを併診することを勧められた。私は在宅療養を希望していたので、村中医師が院内調整してくれることになった。イレウス管については経鼻的な状況はいろんな面で不自由であり、経食道的なイレウス管に入れ替えられるかどうかも検討してもらう事になった。痛み対策についてはモルヒネを含めたオピエイド系鎮痛薬を使って痛みを減らす事も放射線科と連携して治療出来る様にする。今後は早期退院を目指して併診病院、訪問診療・看護、家内の自宅での介護の要領を習得等が整い次第、パクリタキセルの投与を開始する事になった。

3)腸閉塞の原因が癌増殖によると判断した理由

 8クール目のシスプラチンの点滴静注が終わり、これまでに治療経過を考えて担当医師、私も効果を少し期待していたが、退院後2日目に腸閉塞で緊急入院した事に担当医等も、その事を理解出来ない様であった。416日のCT画像では腹腔内の脂肪織は軽度densityの上昇はあるが、明らかな播種は無いとしている。また、再発した626日の腸閉塞の緊急入院時のCTでも416日の画像と同様に、同定可能な播種病変はないと言っている。通過障害の原因として播種や癒着等は考えられるが、CT上は鑑別困難としている。腸閉塞で上行結腸から横行結腸が狭小化し、上行結腸には浮腫状の壁肥厚を認め、これは、播種や癒着等が原因として考えられるとしている。77日の画像でも腹膜播種に伴う癒着が疑われると言及している。右腎盂拡張の出現、腹膜播種の可能性がある。

結局、CTで腸閉塞の原因が播種によると最後まで断定出来ていないのである。担当医等も

放射線医の読影にはもやもや感が残ったものの、播種癌が腸管を腹膜に癒着させストマ近くの腸管が細くなり、蠕動による腹痛の発現或いは腸排液の貯留・ガスが腹痛の一因になっていると結論した様に思われる。従ってSP療法は再発癌に効果が無くなり、2次治療として、北大が考えている胃癌治療の中から現状で私に一番適しているPTX療法を2次治療として行う事にした。

3.セカンドラインPTX療法

北大腫瘍グループは、胃癌のステージ第Ⅳ期で胃以外の腹膜に転移が認められた事で手術などの局所的な治療は難しく、治癒も困難としている状況では、抗癌剤治療を行っている。海外のデータでも抗癌剤治療を行った方が延命に繋がっている事もその理由である。胃癌の2次治療に用いられる抗癌剤としては、フッ化ピリミジン系薬剤、シスプラチン、イリノテカン、タキサン系薬剤が中心となっている。また1020%の胃癌患者では、免疫染色で癌にHER2というタンパク質が発現しており、トラスツズマブ(ハーセプチン)という分子標的薬を併用する事も可能である。しかし、私に使える抗癌剤は消去法で考えると、この中ではタキサン系のパクリタキセルに限定されている様である。ティーエスワン,シスプラチンは既に使用し、イリノテカンは腸閉塞があると副作用が増強され使えないし、トラスツズマブはHER2陽性例の薬剤であり、私はHER2 ゼロの為、対象外である。故に残されたのはタキサン系のパクリタキセルが私の2次治療になったと考えられる。単剤の点滴靜注で、パクリタキセル120㎎を1日目、8日目、15日目に点滴し、効果がある限り4週ごとに繰り返していくことになる。

1)パクリタキセルとは

  パクリタキセルは天然に存在する植物を原料として作られた抗癌剤である。イチイ科のイチイ、オンコと呼ばれる常緑樹で高さ1015m、幹の太さ50100cm、しばしば低木状にもなり、道内の代表的な緑化樹となっている。イチイの名の由来は、昔この木で高官の持つ笏を作った事による。910月に仮種皮は赤熟する。わが家の庭にも5本生垣になっており、秋には赤く熟した実を四男は食べていた。パクリタキセルの先発品はブリストル・マイヤーズである。欧米では24年前に既に誕生しており、日本での発売は199710月で、薬価の折り合いが当局とつかなかったのか薬価収載は20066月になっている。他の抗癌剤同様、毒薬であり医師の処方箋が無くては使えない医薬品である。外観は無色~微黄色澄明の粘稠性の油液である。国内の胃癌に対する臨床成績は23.4%(25107)であるが海外の成績は報告が無い。本剤の作用機作はチュブリン重合促進・脱重合阻害による安定化で細胞分裂をM期で停止させる。体内に入ると細胞骨格を形成する微小管という細胞組織に結合し、癌細胞が分裂する時に出来る紡錘糸が形成するのを妨げることで抗癌作用を発揮する。胃癌では主に初回治療が無効になった後の2次治療以降に用いられ、特に腹膜への転移がある私に適した抗癌剤ではある。

2)パクリタキセル療法

 Weekly PTX療法で1クール28日間の静脈点滴による通院型の治療法である。この療法は、特に癌が腹膜に転移して生じる、がん性腹膜炎に適しており、シスプラチンやイリノテカンを使えない、大量に腹水が溜まっている患者にも適応で2次治療に使われている。北大病院は通院患者の為の外来治療センターで、私は731日に外来受診後、PTX1クール2投目を受ける事になった。

基本的な投与スタイルは1クール1回目●○○○○○○、2回目●○○○○○○、3回目●○○○○○○、4回目○○○○○○○とし、●は外来でのパクリタキセルの点滴静注で○は自宅療養で訪問看護の管理下にある事を示す。これを2、3クール続けて、効果判定し効果があれば繰り返し続けていく事になる。しかし実際は私の白血球/好中球の低下や発熱などの懸念もあり、投与日がスキップする事もある。点滴に罹る所要時間は、アレルギーや吐き気を抑える薬剤を30分流した後、パクリタキセルを1時間点滴するので1時間半ベッドに拘束される。

3)パクリタキセルの副作用

 ブリストルの添付文書で報告されている副作用は主なもの(発現率30%以上)で、末梢神経障害、脱毛、白血球減少、好中球減少であるが、発現頻度は極めて低いが、腸管麻痺をきたし、麻痺性イレウスに移行する事もあるという記載が、今まさに私の医療とは対極にあるので少し気にはなるところである。実際の治療では、骨髄抑制や脱毛、食欲不振、吐き気、下痢、だるさ、手足の痺れやアレルギー反応、特にアレルギー反応に関しては重い症状が現れる事がある。手足のしびれは治療の回数を重ねる毎に症状が増悪する事が多く元に戻らない事もある。私の場合、脱毛は1回目の投与から17目に始まった。今の所脱毛だけで済んでいる。

4)パクリタキセルの薬価について~ゼネリック品の薦め~

 パクリタキセルの先発品はブリストル・マイヤーズのタキソール30㎎と100㎎の2規格である。私に使われている薬剤はゼネリックでパクリタキセル注射液30㎎「サワイ」、パクリタキセル注射液100㎎「サワイ」、パクリタキセル注射液150㎎「サワイ」のいずれかであるが点滴120㎎流しているので、30㎎×4瓶か100㎎×1瓶+30㎎×1瓶か150㎎×1瓶のいずれかを用時調整して使っていると思われる。薬価的に考えると、30㎎瓶は26,120円(6,530円×4瓶)、100㎎瓶+30㎎瓶は25,635円(19,105円+6,530円)、150㎎瓶は27,943円であるので、患者の負担を考えると100㎎瓶+30㎎瓶は25,635円を選択すべきと考えるが、この場合は余分となる10㎎捨てると言う事になるので、私の投与量120㎎にピッタリな26,120円(6,530円×4瓶)を選択しているかもしれない。それとも調整が面倒で150㎎瓶1本を使い、余分な30㎎捨てているかもしれない。患者にはわからないところである。それでもゼネリックを使う事で、先発品を使う事を考えると、それぞれ1回当たり10,348円、10,751円負担減となる。150㎎瓶はサワイの新用量(剤型工夫品)で27,943円とゼネリックにしては若干割高ではあるが、先発36,468円、36,386円に比べればそれぞれ8,525円、8,443円割安になっている。

5)パクリタキセルへの期待感

 この治療法は、私の現状にフィットしていると何故か確信するのである。つまり私の癌は腹膜転移しており、腹水も頻繁に排出しているので、これを適応すると確信するならば2クール終了時点で癌が減少し、閉塞が改善してくれれば、食事もできるし元の人間らしい日常も取り返せると思っている。有効性については、Primary endpointOS(Overal survival 全生存期間)中央値は7.7ケ月、PFS(Progressionfree survival 無増悪生存期間)中央値は3.7ケ月であった。PTXの腹腔内投与は臨床第Ⅰ/Ⅱ相試験を経て腹膜播種を伴う胃癌に対するS1PTX経静脈・腹腔内併用療法/S-1CDDP併用療法による臨床第Ⅲ相試験(フェニックス試験)の結果も期待出来るし、駄目でも10月にはオキサリプラチンに胃癌の適応が追加される様であるし、夢はある。但し、私がこの世に在るかどうかは神のみぞ知るである。

4.在宅医療への移行

国立がんセンターの癌患者数及び死亡者数の予測によると、1位胃癌13700人、2位肺癌129,500人、3位大腸癌128,500人であるという。今年新たに癌と診断される人882,200人、死亡者数は367,100人としている。高齢者の二人に一人は癌患者であり、癌死も相変わらず多いと実感せざるを得ない。最後位は自宅で過ごしたいと言うのが患者の本心だと思うが、実際は癌患者の90%は病院死しているのである。

1)訪問看護移行準備

 訪問看護への依頼目的はHPN管理と自宅での体調管理であり、看護師の私の基礎データとしては以下の内容を共有化している。711日時の身長は167.3cm、体重49.55kgPSは3で右耳が聞き取りづらい、意志の伝達や理解・表現・記憶等については問題無いとしている。入院生活における起居、移動、清潔介助、更衣は自立出来ているが、入院時の夜間にトイレで転倒している。ストマ造設により身体障害者手帳4級を有している。病名は胃癌術後、腹膜播種再発、癌性腹膜炎によるイレウス、右癌性水腎症、横行結腸ストマ増設後と説明の後、経過については201175日胃癌にてKKRにて胃・胆嚢全摘+R-Y再建し、術後TS-11年間内服した。20136月にイレウスにて緊急入院。横行結腸に狭窄あり、725日に横行結腸ストマ造設。切除腹膜より癌の再発所見あり、TS-1+CDDPを開始したが、S-1内服中に骨髄抑制強く中止。920日セカンドオピニオン目的で北大を受診し、S-1を減量しCDDP5クール投与。626日腹痛あり、ストマからも排便せず外来受診し、イレウスと疑われ当日緊急入院となった。73CSで狭窄所見あり、74日イレウス造影、77CTで癌性腹膜炎によるイレウスであると診断される。SP療法が効果なく腸閉塞が再発したと判断し、セカンドラインとしてPTX投与予定。退院後はHPN管理、体調管理が目標となる。今後は北大でパクリタキセルを点滴する為、週13週続けての外来通院する事になる。

2)退院時の北大、そよ風共同カンファレンスの記録

訪問看護への依頼目的はHPN管理と自宅での体調管理である。北大側からそよ風に依頼する形で奈良看護師がコーディネーターとなり、714日北大12階研修室でカンファレンスを開催した。

 北大消化器内科・化学療法グループ 村中医師、12階病棟 伊東看護師

 地域医療連携福祉センター 奈良看護師、外来 富樫看護師

 きぼう 菅原マネージャー

 そよ風 吉崎医師、鈴木医師、戸井医師、吉崎看護師、花摘看護師

 患者  私と家内

確認内容

 胃癌術後で癌が腹膜再発している状態である。ファーストラインとしてこれまでSP療法を行って来たが、効果が薄れてきた様で腸閉塞を発症した。腸閉塞に対してイレウス管を留置して、中心静脈栄養を行っている。セカンドラインはパクリタキセルを715日より開始する予定である。試験外泊後に退院し、退院後は週に1回程度北大に通院してパクリタキセルの治療を行う予定である。退院後は「そよ風」から看護師、医師が定期的に訪問して体調管理、中心静脈栄養、イレウス管について看護・診療を行う。定期的な訪問以外にも24時間クリニックに連絡が出来て状況に応じて臨時の往診などを行う体制が整っている。我々は自宅で過ごす事を希望しているので、そよ風は希望に沿った診療・看護を整えている。入院が必要な場合は、その時の状況に応じ自宅に近い病院や北大病院、もしくは関連病院での入院を検討する事になる。

 3)在宅医療の活用に至った動機・背景

 昨今、元気に暮らせる健康寿命という考え方があり、女性の平均寿命は86歳、健康寿命は73歳、男性は平均寿命79歳、健康寿命は70歳と言われている。3年前に胃癌になったとはいえ、約70年間、どうにか病に苦しめられる事も無く健康に過ごせてきた事に感謝している。現在65歳以上が人口の30%を超え、団塊の世代が75歳以上になる2025年問題は社会にとって深刻な状況になっている。当然、国もこの問題を解決すべく、1例として在宅医療の普及に力を入れ始めた。入院中の癌患者は運動不足のせいもあり入院が長引くと筋力も衰え、私もそうであるが、何となく病人くさくなっていく。一方、覚悟を決めた在宅患者は末期癌患者でも心穏やかで表情も明るい様である。日本では8割の患者が病院で亡くなり、癌患者の場合は9割無くなっているそうである。この数字は先進国の中でもっとも病院死の割合が高く、ちなみに米国は全体の病院死及び癌患者共に4割前後、オランダは35%、28%である。最後の時に少しでも長く生かそうと死のその時まで点滴を続ける事があるが、点滴を続けるとむくんで苦しみを延長させるだけで、しなければ眠るように安らかにあの世に還れるのではないだろうか。酸素や抗生物質治療は病院でも自宅でも同じように出来、違いをいうならば看護師がそばにいるかどうかのである。在宅医療は患者の生きざまを認め支えてくれる。その中心は訪問看護であり、医師は患者の病態を判断し、看護師に指示し、責任を負う。医師は病気を治す事を最優先するが、看護師は治す、労わる、癒す、介護者の相談にのるなど、多岐に渡っている。このように様々な形で患者をサポートしている。人は皆年をとると先ず足・腰が弱り通院しにくくなる。まして老老介護ではなお更である。病院は、その虚弱な要介護の高齢者が抱える心身の問題を解決する場所ではなく、虚弱な高齢者を支えられるのは、生活の場や地域で行われる医療であり介護である。ヒトは誰でも必ず死ぬ宿命にあり、それを如何に受け入れるか個々の問題であると同時に地域・社会全体の問題でもある。

5.SP療法からPTX療法に移行するにあたっての私見

1)抗癌剤治療の効果の判定とその後の治療

  抗癌剤は同じものを長期にわたって使用してもあまり効果が得られないどころか、それによって悪化する場合も多いと聞く。また、標準療法といえども検証された効果があっても、その治療薬が、どの患者にも効果を示すとは限らないし、同じ癌の種類でも患者の体質によって抗癌剤を替える必要もあるのではないかと考える。実際、治療現場では、抗癌剤の効果が出るまでに平均1~2ヶ月かかると言われているが、その時の治療効果の判定により、効果が見られない場合にも、すぐ他の抗癌剤に切り替える必要がある様である。臨床試験における癌の治療効果判定は標準病変の大きさの変化や腫瘍マーカー検査結果等が判定の基準になっているが、治療の現場では患者の病勢を客観的に知る必要があり次へのステップの為に活用されている様である。例えば、固形癌の治療では、CR:癌細胞の消失が4週間以上続く、PR:癌細胞が最長径の和の30%以上が縮小、SDPRPDのどちらの基準も満たさない、PD:癌細胞の最長径の和が20%以上増加、という癌細胞の縮小、増加で効果を判定している。この判定でPDの場合は、抗癌剤治療中止・変更し、PDSDでは一般的には治療継続、仮にCRという良い結果が得られても、画像診断上、分かり易く言えば目に見える範囲での癌細胞の消失と言う事で、ミクロレベルでは多数の癌細胞が残っている事も考えられる訳である。つまり、見かけ上の消失が4週間続けば完全奏功になるが、その後もその状態が保証される事ではない事を患者も認識しておく必要がある。

2)抗癌剤治療の問題点

 癌治療の最大の目的は、癌患者の延命であるはずなのに、治療が続けば続くほど、患者の免疫力、体力を低下させてしまう矛盾を抱えている。つまり、癌細胞分裂を停止させ、弱らせると同時に全身の正常な細胞にもダメージを与えていると言う事である。その結果としてがん細胞は縮小したが、患者自身は衰弱して延命出来なかったケースも決して少なくないはずである。医師よりICの場で、患者に使う抗癌剤の「奏効率」は30%ですと言われると30%の癌患者は治ると患者は思ってしまうのではないだろうか。30%奏効率を正確に説明するならば癌細胞が完全に消失するケースか、画像診断上の面積で50%以下の大きさに縮小し、この状態が4週間以上続いた患者が30%いたと言っている数字である。仮に患者がこの数字の中にいたとしても、その後、癌細胞が再び増大し、亡くなったとしても4週間で判定した一時的縮小を抗癌剤が奏功していると言い、これは患者の望む延命では無い事を知ってほしい。

3)抗癌剤承認の現実

 抗癌剤の認可にあたっては、当然厚労省としては数値化したデータが必要であり、出来るだけ早く承認して癌患者に役立てたいという考え方もあるが、抗癌剤の効果を患者サイドの「延命」を最大目標と考えると、より奏効率の高い(予後の延命を考えると4週間後の効果判定であったとしても、根拠はないが90%以上は欲しい)レベルで認可して欲しいと無理難題を要求したくなる。実際はこの様な考え方では抗がん剤がこの世に出てこない事も承知・理解しているので、難しい問題であると思っている。元に戻るが、癌細胞の縮小率が50%以上で新しい病変が4週間以上ない状態が20%の患者に奏功したという事は、2割の癌患者が4週間以上、癌細胞の大きさが半分以下になっていればいいと言う事で、逆に言えば8割の癌患者に無効でも、極端な事を言えば4週間だけしかない効果でも承認されているのである。これが他の処方箋薬と大きく違う所であり、抗癌剤を特殊な薬剤として特に効くという薬でもないのに薬価は高く、患者負担、医療費の高騰にもつながっている。承認されている抗癌剤治療で、若干の延命をもらい、その時間どう有効に生きるかと言う事に変えて、抗癌剤への過剰な期待はやめる事である。12年後問題、団塊世代が後期高齢者になるころは抗癌剤も含めて、一層、医療費が嵩み、制度そのものを見直さなければならない様である。

 

4)期待される分子標的薬

 2001年以来10年、次々に分子標的抗癌剤が承認されている。日本では乳癌の分子標的治療薬として2001年にトラスツズマブ(商品名:ハーセプチン)が最初に承認された。HER2強陽性と患者のみに効果のある薬剤である。2011年には公知申請が認められ、HER2過剰発現が確認された治癒切除不能な進行・再発胃癌にも使えるようになった。他の分子標的抗癌剤も次々に承認され今後の癌治療に期待がもたれる。一般名(商品名)を羅列紹介する。リツキシマブ(リツキサン)、イマチニブ(グリベック)、ゲフィチニブ(イレッサ)、ボルテゾミブ(ベルケイド)、ベバシズマブ(アバスチン)、エルロチニブ(タルセバ)、イブリツモマブ(ゼヴァリンイットリウム)、ゲムツズマブ オゾガミシン(マイロターグ)、ソラフェニブ(ネクサバール)、スニチニブ(スーテント)、セツキシマブ(アービタックス)、ダサチニブ(スプリセル)、ニチニブ(タシグナ)、ラパチニブ(タイケルブ)、エベロリスム(アフィニトール)、パニツムマブ(ベクチビックス)、テムシロリムス(トーリセル)以上18品目の分子標的薬が2010年時点で薬価収載されている。分子標的薬の一般名は覚えにくいですね。

 

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