13稿 「癌と共に~抗癌剤治療と薬価基準~」 2014314

目 次

1.新たな抗癌剤治療法

2.検査ビジネスは患者にとって必要な検査か?

3.医療に関するアラカルト

4.薬価の仕組みを考える~ジェネリック品の普及~

 

1.新たな抗癌剤治療方法

近年、新しい抗癌剤として分子標的治療薬が開発され、他に従来型のものでもその欠点を補う効果的投与法が模索され効果も上がっている。従来の癌細胞を死滅させる抗癌剤には同時に免疫細胞等の正常細胞にダメージを与える事も周知であるため、新たな治療法として極小量療法、局所投与法(動注化学療法、閉鎖循環下骨盤内潅流化学療法、経皮的肝潅流化学療法)、多剤併用療法、生化学的調節法、クロノテラピー(時間治療)、放射線化学療法がある。私に使える投与方法は以下の5つの方法と思われる。

1)極小量療法

  抗癌剤は癌細胞を死滅させると同時に免疫細胞等の正常細胞にもダメージを与える。従来の標準的抗癌剤治療では、奏効率、即ち見かけ上の癌細胞の縮小効果を第一に考えていた為、副作用に耐えられる限度まで大量に抗癌剤が投与されるケースが多く、癌細胞は一時的に縮小しても、免疫細胞をはじめとする正常細胞のダメージより、癌細胞が再び増大するというリバウンド現象がよく見られた。そこで投与量を極小量にして患者に投与したところ、本来ならば癌が悪化するはずなのに、良好な治療成績が得られるケースが見られた。この方法に免疫力を上げる薬剤を投与する等の方法を併用する事により、標準的な抗癌剤治療を上回る延命効果が報告されている。薬剤をごく少量に減らす事により、免疫細胞にはダメージを与えず、癌細胞を弱らせる事で癌細胞が免疫細胞に認識され易くなるのではないかと考えられている。この癌治療法は、まだごく一部の施設でしか実施されていないが、従来の抗癌剤治療の常識を覆す治療法であると思っている。

2)局所投与法

抗癌剤は点滴靜注で投与される事が多く、その結果、正常細胞にダメージを与える一方で、代謝され、広く拡散され、癌には十分な濃度の抗癌剤が届かないと言う欠点がある。その為に目に見えないミクロな癌細胞が遠隔転移するのだろうと私は勝手に想像している。そこで、直接癌に投与する、あるいは限られた一定の範囲でしか抗癌剤が循環しない様に工夫した治療法が考案され、副作用が軽減される一方で癌細胞には高濃度で働く事が出来る為、効果、成果も上がっている。

3)多剤併用療法

癌に効果のある抗癌剤は一種類ではなく、多くの作用機序の異なる抗癌剤が前報で紹介した様に先発品、後発品(ゼネリック品)を含め、多数薬価収載されている。現在は抗癌剤標準治療として、多剤併用療法が主流になっている。多剤併用療法の利点は、作用のメカニズムが異なる薬剤を組み合わせる事で、より大きな効果を発揮出来るという事である。癌細胞は抗癌剤に対して耐性を持ち、生き残った癌細胞がまた増殖すると治療が困難になる為、あらかじめ複数のものを投与する事で、より多くのタイプの細胞を効率よく死滅させる事が出来る。また、組合せの工夫により、副作用の軽減も出来る様になっている。

4)生化学的調節法

この治療法は、多剤併用療法の一種であるが、抗癌剤を投与する際にその薬の性質や働きを変化させる他の薬剤を同時かその前後に投与して、その効果を増強したり、副作用を軽減したりする方法である。いくつか例をあげると、フルオロウラシルは抗腫瘍効果発揮する為に、葉酸が必要である。そのために、あらかじめ患者に活性型葉酸の原料となるロイコボリン(ホリナートカルシウム)を点滴で投与し、その後、フルオロウラシル投与する事で、高い抗腫瘍効果を発揮する事が出来る。S-1(ティーエスワン)は生化学的調節法の理論に基づいて日本で開発された薬剤である。このS-1は体内でフルオロウラシルに変化するテガフール、フルオロウラシルが分解されるのを妨げるギメラシル、さらにフルオロウラシルが消化器に与える毒性を低下させるオテラシルカリウムの3種類の薬剤から成り、進行胃癌にも効果を発揮する事が確認されている。抗癌剤の欠点はその作用が全身にわたり、正常な細胞まで痛めてしまう事にある。それならば抗癌剤が癌細胞のみに効率よく投与されれば、そのような問題は解決される。そのために考え出された化学的方法が、抗癌剤を高分子体でおおい、癌細胞付近でその高分子体から抗癌剤を流出させる事で、正常細胞への影響を極力減らそうという方法である。癌細胞はある程度大きくなると、正常な血管から新しい血管を自己の細胞に向けて作る事が出来る。これは血管新生と呼ばれている。この血管は血管壁が薄く、水分や高分子の栄養分まで外にしみ出し易いという性質を持っている。これが腹水の原因にもなっているが、DDSdrug delivery system)はこの性質を利用したもので、高分子でおおわれた抗癌剤は正常な血管では高分子の為、血管の外へ流出しないが、この癌細胞付近に出来た新しい血管は透過性が高い為、血管壁を通過する事が出来る。血管を透過した高分子体は癌細胞付近でやがて壊れ、流出した抗癌剤は癌細胞に効率よく作用する。この高分子体にはリポソームやミセル等の高分子体が使用される。この癌治療法は抗癌剤アドリアマイシンやタキソール内包ミセルの臨床試験として国立がんセンターで行われている。

5)クロノテラピー(時間治療)

1日の中で抗癌剤の投与の時間を変える事で、その効果も変わってくると言う事が近年の研究により報告されている。正常細胞が分裂・増殖するリズムは、朝から昼に向かって活発になり、夕方から夜にかけて低下し、夜間に最も鎮静化すると言われている。また、癌細胞が分裂・増殖するリズムは一定ではないが、夜間活発になり、日中は低下する傾向が見られる事が分かってきた。従って、この細胞分裂の時間のズレを利用し、夜間、抗癌剤を投与すると細胞分裂を行っている癌細胞にダメージを与え、細胞分裂をあまり行っていない正常細胞への影響を抑える事が出来る。現在、日本ではまだあまり普及していない治療法であるが、横浜市大病院では進行大腸癌に対して抗癌剤フルオロウラシルのクロノテラピーによる術前化学療法を行い、良好な治療成績を上げている。

 

2.検査ビジネスは患者にとって必要な検査か?

数年前より、病気のリスクや体質を調べる遺伝子検査がビジネスとして動き出した。私は高額な費用にも疑問であるし、検査結果は患者の不安を助長するのではないかと思っている。札幌医大の桜井教授(遺伝子医学)が検査の精度に興味を持ち、インターネットで「子供の才能が分かる」という遺伝子検査を注文した。検体は桜井教授自身の口腔粘膜を麺棒でこすり取って送った。1カ月程で「集中する時間が短く、外部からの影響を受けやすい。学習には不利」という報告が届いたと言う。桜井教授は学問で身を立てているのに、この報告をどう評価したらいいのだろうか。この才能検査は2008年に上海で始まり国際学会でも評価されていると言っているが、検査は19個の遺伝子で調べているそうであるが、内向性、楽観性、美的感覚など5項目は、ある1個の遺伝子だけで判定していると言う。色覚に関する遺伝子に異常がないと、「色彩感覚が優れている」とする等、検査の結果とその解釈の仕方に論理的飛躍がみられるものも多いと言う。結論として桜井教授は、わずかな遺伝子で、人の才能を判定するのは不可能と結論付けている。遺伝子検査は、遺伝性乳癌の発症リスクの診断や抗癌剤の効果を調べる医学的検査から肥満のタイプや長寿の可能性等を調べるビジネスまで幅広く、10数万人が利用していると言う。検査のメインは体質であるが、多くの遺伝子が関わるにもかかわらず、実際はその一部しか調べていない。もし、ある病気になるリスクが2倍とでても、このリスクは特定のSNP(スニップ、遺伝子の配列)を持つ集団の傾向に過ぎず、個人には当てはまらない様である。信州大学の福嶋教授(遺伝医学)は、遺伝情報をどう健康に役立てるかは研究が始まったばかりである。根拠がない検査が横行しないよう認証制にして精度をチェックするべきと言っている。

根拠のある遺伝子検査としては、アンジェリーナジョリーの乳房切除(20132月)に至った事例があった。彼女は乳癌のリスクを高める遺伝子が見つかった為、発症しない様に両方の乳腺切除をする事に決めた。その結果、87%あった乳癌リスクは5%にまで下がり、切除後インプラント乳房再建する手術を受けた。この手術について告白したのは「乳癌にかかるリスクを知らないで暮らしている女性が多い。女性たちが皆、遺伝子検査を受け、治療の選択肢を持てる様になる事を望んでいる」からだそうである。乳房を切除しても女性らしさが失われたと感じた事は無いと力強く発言している。彼女の主治医も「彼女はこれまでチャリティー活動に打ち込んできた人である。だから、こういう手術を決断した事を秘密にするべきではないと信じていた」と当時の彼女の心情を分析している。その後、巷では、この治療法については色々な意見や考え方が出てきたが、彼女が告白したことで議論の場が出来たのは事実であると言い、プライベートを大切にしてきた彼女が告白するには、きっと勇気がいったはずで、そう思うとやっぱり彼女はただ者ではないと言うのが欧米人の一般的な評価、考えの様である。彼女自身の乳癌やその治療について告白、話すことで、そのリスクについて広く女性に知らせた功績に対して、「彼女は、偉大で勇気のある女性である」と讃えるアメリカ人の感性に私は違和感を懐いた。日本人女性は将来乳癌のリスクがあると言う事で、乳腺切除に踏み切れるだろうか・・・、私は再生医療、万能細胞の臨床応用、分子標的薬剤の標準療法の確立などが遠からず貢献(実用化)すると信じているので、乳癌に罹患する前に発症を恐れて、早まって手術した事は残念な事例と思っている。しかし、彼女は世界中の貧困に苦しむ子供たちを引き取り育てているので、その子供らをきちんと育てる為に乳癌になるリスクを手術する事で敢えて避けたのかもしれないし、短絡に批判するに当たらないのかもしれない。でも、世界に向けて公表する必要はあったのだろうか。今後とも遺伝子検査によって諸々の病への罹患が診断されると思うが、どう生きていくか個々人の問題として、事前に予防的に手術するのか、それとも医学の進歩を信じて時期を待つか、自分の生き方としてあるがままでいいのか、難しい判断をしなければならない局面になってきた。パートナーの男性はこの事をどう考えるのだろうか?淡々と受け入れられる事だろうか?

 

3.医療に関するアラカルト

(1)肝臓癌の予防にドリップコーヒーが効く!

大阪市立大が201312月に肝臓癌を防ぐかもしれないフィルターを通して作ったドリップコーヒーについての研究結果を発表した。肝臓に癌が出来るのは、肝炎ウイルスの感染が原因で、日本人ではC型が約8割を占め、その感染者は約200万人とされている。大阪市大は、C型肝炎ウイルスによる慢性の肝炎や肝硬変患者を対象に、肝機能を示す数値の変化とコーヒーを飲む頻度の関係を調べた。その結果、コーヒーを毎日1杯以上飲んでいた人は全く飲まなかった人に比べ、異常だった数値が1年後にはよくなった人が多かった。当大学の河田教授はどんな物質が効いているのか現段階では不明であるが、体内のウイルス量を減らす薬の副作用が出やすい人には、今の所、ドリップコーヒーを飲む習慣を勧めている。ただしカフェイン抜きやインスタント、缶入りコーヒーでは効果が見られないそうである。

()活性酸素の診断薬の可能性

老化や糖尿病、心筋梗塞、脳梗塞などの原因の一つに活性酸素が考えられ、これが過剰に出来ると、細胞を傷つけ、体の組織を錆びつかせてしまう。反面、活性酸素は体内で有害な細菌やウイルスを殺す重要な働きもあるそうだ。そんな活性酸素の特徴を生かし、癌細胞を殺す抗癌剤にも応用されている。さらに体内の活性酸素で病気を知る手掛かりとするべく、東工大の河野特任教授らにより、血中の活性酸素の発生に関係している物質の量を調べる事で腎臓病や糖尿病の予兆をつかめないか研究中である。活性酸素は体の健康と深くかかわっているが、未知の部分も多く新しい発見が次々に生まれてくる分野であると期待している。将来的には先ず生活習慣病の予防や癌、アレルギー疾患などの早期診断につなげたいと言っている。

()アルコールと脂肪肝、そして癌に繋がる脂肪肝

脂肪肝の原因は先ずアルコールを疑うのが一般的である。肝臓は最大臓器で、大人では重さ1.2kg以上で、毎分1.5kgの血液が流れ込むと言われている。そのうち7割が、腸とつながる血管から肝臓に入り、口から入った食物は口腔内や胃の消化液により分解され、さらに肝臓(化学工場である)で分解され、体の栄養源や部品に作り直される。しかしアルコールの飲み過ぎは肝臓での分解が追い付かず、その結果脂肪が肝臓に脂肪肝としてたまる。1日当たり日本酒では1合程度が適量と厚労省は示している。更に肝臓は食物以外に化学物質も分解する。だから新薬開発のためには肝臓の働きを知る必要がある。広島大学の吉里名誉教授は、新薬開発に役立つマウスを作ったと2004年に発表した。体内に人と同じ細胞の肝臓を持ち、薬にしようとする化学物質が肝臓で分解されて毒に変わらないか調べられるという事で、海外との競合はあったが9割以上を人間の細胞に置き換えられた点で優位となり、ベンチャー企業が事業化し、国内外で数十の製薬会社や研究機関で使われている。

日本人は内臓に脂肪をためやすく、特に脂肪肝は癌に繋がるケースがある事が問題視されている。これまでは大酒家に起こるのが定説であったが、アルコールを飲まない人にも起こる事がわかり、この脂肪肝は非アルコール性脂肪性肝疾患(NASH:ナッシュ)と呼ばれている。現在、国内で100万人おり、今後も増え、10年後にはNASHを含む脂肪肝が肝臓癌最大の原因になると虎の門病院の熊田医師は予測している。悪化する脂肪肝かそうでないかは専門医には見分けがつくというから、健康診断でひっかかったら躊躇する事なく受診すべきである。

()1日の食事量―カロリーから体格を示すBMI新基準へ―

 厚労省は、これまで朝昼晩で計2000Kcalと決めていたエネルギー量を改め、身長と体重から算出するBMI(体格指数:Body Math Index)の目標を示し、それを維持できる量を薦める方針を決めた。その目的は、個人による体格の違いを反映させ、生活習慣病の予防に繋げる為である。計算法はBMI=体重(kg)÷(身長(m)×身長(m)で、ちなみに私のBMI19.918歳~49歳の体格です。BMIの新基準の目標は以下の通りである。目標とするBMI18歳~49歳で18.5~24.950歳~69歳で2024.970歳以上で21.524.9と設定した。更に追加説明すると、BMI18.5未満で「やせ」、18.5以上25未満で「標準」、25以上30未満で「肥満」、30以上で「高度肥満」と判定されている。これまで3040歳代で運動量が中くらいの女性は12000Kcal1849歳の中くらいの男性は2650Kcalが必要量とされていたが、高身長の女性や小柄な男性等には対応できなかった事による新基準設定(変更)であった。又、最近の研究で中高年では必ずしも当てはまらず、「やや太めの方が長生き」と言う事が分かり、これを考慮した評価は以下の通りである。

標準体重はBMIの標準値から下記の式で計算される。

標準体重(kg)=身長(m)×身長(m)×BMI標準値(一般的には22

私の標準体重はこの式で計算すると60.6kgとなった。皆様も健康の為に計算してみて下さい。

(5)癌免疫細胞治療

 都道府県で治療が受けられる。3大治療である手術、放射線、抗癌剤に次ぐ第4の癌治療として癌免疫細胞治療が出来る様になった。先端医療の培養技術で患者自身の免疫細胞「NK細胞」を体外で増殖、強化して体に戻す事で癌を認識、攻撃させる治療である。活性NK細胞治療を開始するたびに22万円の費用がかかる。適応は手術不可の進行胃癌で、S-1(ティエスワン)で改善なく、活性NK細胞治療で癌が縮小し、改善すると言うものである。私にとっては実に興味ある治療法である。

(6)免疫活性化血管内治療

 21世紀の新しい抗癌剤として分子標的治療薬が脚光を浴びている。従来型の抗癌剤と違って新しいメカニズムで癌を抑える薬である。免疫活性化血管内治療は分子標的治療薬を直接癌細胞に投与し、癌細胞の分裂を抑える。分裂していない細胞には影響が少ないので正常細胞を傷付けない。従来型の抗癌剤を使用しないので、抗癌剤では治療が難しい部位にも治療が可能で、免疫細胞を刺激して免疫力を高める。

(7)遺伝子治療

 癌免疫細胞治療に似ているような気もする。癌は細胞の遺伝子の異常により発生する。その壊れた癌細胞の遺伝子を正常な遺伝子と入れ替えて、正常な遺伝子が癌細胞を自滅死(アポトーシス)へと導く。正常細胞を傷付けないで安全な治療法。点滴による全身投与では効果が無いので血管内治療と併用の局所療法で行う。

(8)難治性腹水の治療

 腹水濾過濃縮靜注法(CART法)は腹水を抜き、体にとって有用な成分のみを取り出して静脈経由(点滴)で戻す治療法で、生活の質をあげて栄養状態の改善も図る事が出来る治療であるが、従来は手技が複雑であるばかりでなく、濾過した体液中に発生する炎症物質で高熱を出す等の副作用が見られる事があり、汎用されない時期もあった。他の治療としては、腹水穿刺排液(お腹に針を刺し腹水を抜く方法)とアルブミン製剤を補充する方法や腹膜頸静脈シャント術(腹腔と静脈を繋いで腹水を静脈に流す方法)等がある。腹水とは、腹膜の腹腔(隙間)には通常2050mℓの水が入っているが、癌等を含む様々な病気の影響で通常より沢山たまった水、又は状態を言い、内から外へ強烈に圧迫され、お腹がパンパンになって、とても苦しい症状である。

 

4.薬価の仕組みを考える~ジェネリック品の普及~

  薬価とは、簡単に言うと、医師が処方箋を出し、患者が処方箋薬局で薬の代金として支払う薬の値段の事である。国(厚労省経済課)は、製薬企業が申請した希望薬価を一定の基準・考え方で検討し、薬価(値段)を決めて、官報で周知後に保健薬辞典に収載する、簡単に言えば国の価格統制と言える。更に、国は先発品を保護する為に特許期間内の後発品の承認(発売)はせずに、製薬メーカー(新薬)の開発意欲を削がないように、暗にメーカーの新薬開発費用の回収を保証している。私が現在治療しているSP療法で使われている薬剤で薬価の仕組みを紹介する。

ジェネリック品は新薬の特許期間が過ぎた後に、他の製薬メーカーから製造・販売され、有効成分、効果、品質、安全性が先発品(新薬)と同じである条件で国より承認されたものである。国も最近になって、特許が切れたとはいえ、新薬の薬価は依然として高薬価であり、国策の一部としてジェネリック品の使用を推進すべく、病院等に指導している様であるが、欧米並みに普及するには、まだまだ年月が必要の様である。

1)         先発品ティーエスワンの薬価

一般名は、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤顆粒201包及び251包(テガフール相当量)、201カプセル、251カプセル(テガフール相当量)、更にティーエスワンの剤型追加としてティーエスワン配合ODT20T2520136月  21日に薬価収載され、1成分6品目が発売されている。

顆粒成分は201包中にテガフール20㎎、ギメラシル5.8㎎、オテラシルカリウム19.6㎎で251包中にテガフール25㎎、ギメラシル7.25㎎、オテラシルカリウム24.5㎎である。カプセル成分は201カプセルにテガフール20㎎1包中にギメラシル5.8㎎、オテラシルカリウム19.6㎎で、251カプセルにテガフール25㎎、ギメラシル7.25㎎、オテラシルカリウム24.5㎎である。商品名及び薬価は以下の通りである。

  ティーエスワン配合顆粒T20(大鵬薬品)・・・・・・・20㎎1包薬価:858.20

  ティーエスワン配合顆粒T25(大鵬薬品)・・・・・・・25㎎1包薬価:1,032.10

  ティーエスワン配合カプセルT20(大鵬薬品)・・・・・・20㎎1カプセル薬価:675.60

  ティーエスワン配合カプセルT25(大鵬薬品)・・・・・25㎎1カプセル薬価:812.80

  ティーエスワン配合ODT20(先発の新薬)大鵬薬品・・1錠の薬価:675.60

  ティーエスワン配合ODT25(剤型追加品)大鵬薬品・・1錠の薬価:812.80円 

2)         ティーエスワンのジェネリック品の薬価

先発品ティーエスワンの特許が切れて、他社のジェネリック品が承認を受け、薬価収載される。薬価は先発品の7割の値段をつけるルールであった様に記憶しているが、新ルールでは6割になる様である。1成分4品目が先発に続き薬価収載されることになる。

  エヌケーエスワン配合カプセル(日本化薬) 201カプセル薬価:405.36円、251カプセル薬価:487.68円で薬価収載された。

  エスケーエスワン配合カプセル(沢井製薬)及びエヌケーエスワン配合カプセ(日本化薬) 201カプセル薬価:430円、251カプセル薬価:517.3円で20136に薬価収載された。

本年4月薬価改正があり、消費税の8%(従来の5%より3%アップ)値上げで、市場での薬価調査(医療機関への売価)次第では先発品の薬価は値上げになると思われる。ジェネリック品についての値上げについては今の私には判断が付かない。

3)先発品シスプラチンの薬価

先発品はブリストル・マイヤーズと日本化薬で、昭和59317日に薬価収載されている。1成分6品目が薬価収載されている。約30年間で薬価は3割から5割切り下げられている。

①ブリプラチン注10㎎、1020mℓ1瓶(ブリストル・マイヤーズ)・・・2,903

②ランダ注1020mℓ1瓶(日本化薬)・・・2,903

  ランダ注2550mℓ1瓶(日本化薬)・・・7,230

  ブリプラチン注25㎎(ブリストル・マイヤーズ)・・・6,874

  ランダ注50100mℓ1瓶(日本化薬)・・・・12,793

  ブリプラチン注50100mℓ1瓶(ブリストル・マイヤーズ)・・・12,134

4)ブリプラチン注、ランダ注のジェネリック品の薬価

1成分13品目が薬価収載され、規格・単位が同じでも薬価差がある事をお分かりになるであろう。患者側としては先発品もゼネリック品も同じ効果であるので薬価の安い方を使うのが合理的である。薬は医師の処方箋により調剤薬局で購入する事になるので事前にジェネリック品を処方出来るか打診してみる価値はある。この薬価差は製薬メーカーがそれぞれ値引きして病院に納入するので、薬価調査、薬価改正でそれぞれの売値が薬価に反映される為である。

①プラトシン注10 1020mℓ1瓶(ファイザー・協和発酵キリン)・・2,353

②シスプラチン点滴靜注液1020mℓ1瓶(マイライン)・・・1,316

③シスプラチン点滴靜注液1020mℓ1瓶(日医工ファーマ・ヤクルト)・・1,316

④シスプラチン注10㎎「日医工」20mℓ1瓶(日医工ファーマ・ヤクルト)・・1,136

⑤プラトシン注252550mℓ1瓶(ファイザー・協和発酵キリン)・・5,489

  シスプラチン注25㎎「日医工」50mℓ1瓶(日医工)・・3,749

  シスプラチン点滴靜注液2550mℓ1瓶(日医工ファーマ・ヤクルト)・・3,749

  シスプラチン点滴靜注液25㎎「マイライン」2550mℓ1瓶(マイライン)2,824

  プラトシン注50 50100mℓ1瓶(ファイザー・協和発酵キリン)・・9,933

  シスプラチン注点滴靜注50㎎「マルコ」50100mℓ1瓶(日医工ファーマ・ヤクルト)・・5,920

  シスプラチン点滴靜注液50㎎「マイライン」100mℓ1瓶(マイライン)・・5,232

  シスプラチン注50㎎「日医工」50100mℓ1瓶(日医工)・・4,759

5)私のSP療法の薬剤価格

SP療法の一次治療に用いる薬剤を4パターンに分けて、その薬剤費を比較して見る。*新薬+新薬 *新薬+ジェネリック品 *ジェネリック品+ジェネリック品の3パターンに加え、*ジェネリック品最安値の銘柄2剤での試算もして見る。一番高い価格である新薬2剤のシスプラチン(新薬:ランダ、ブリプラチン)1回点滴靜注90㎎、S-1(新薬:ティーエスワン)21日朝夕連続服用を対象に、他のパターンを試算し、薬剤費を比較する。

パターン1.⇒ブリプラチン注10㎎、10㎎/20mℓ1瓶(ブリストル・マイヤーズ)×4瓶 40㎎ 薬剤価格@2,903円×4瓶=11,612円、ランダ注50㎎、50㎎/100m

ℓ1瓶(日本化薬)×1瓶=12,793円 ※シスプラチン1回点滴靜注90㎎=ブリプラチン10㎎×4+ランダ注50㎎×1瓶で計算している。以下同様の考え方である。

ティーエスワン配合ODT25 25㎎錠(大鵬薬品)2錠 50㎎ 薬剤価格@812.80円×2錠/日×21日間=34,137,6円  1クール35日間の薬剤費は以下の様になる。

試算:11,612円+12,793円+34,1376円=58,5426

パターン2.現在使っている北大病院での薬剤の組み合わせ。シスプラチン点滴靜注液1020mℓ1瓶(日医工ファーマ・ヤクルト)×4瓶 40㎎ 薬剤価格@1,316円×4瓶=5,264円、シスプラチン注点滴靜注50㎎「マルコ」50100mℓ1瓶(日医工ファーマ・ヤクルト)×1瓶 =5,920

ティーエスワン配合ODT25 25㎎錠(大鵬薬品)2錠 50㎎ 薬剤価格@812.80円×2錠/日×21日間=34,137,6円 1クール35日間の薬剤費は以下の様になる。

試算:5,264円+5,920円+34,1376円=45,3216

パター3.シスプラチン点滴靜注液1020mℓ1瓶(日医工ファーマ・ヤクルト)×4瓶 40㎎ 薬剤価格@1,316円×4瓶=5,264円、シスプラチン注点滴靜注50㎎「マルコ」50100mℓ1瓶(日医工ファーマ・ヤクルト)×1瓶 =5,920

エスケーエスワン配合カプセル(沢井製薬)及びエヌケーエスワン配合カプセル 25㎎カプセル(日本化薬)2カプセル501カプセル 薬剤価格@517.3円×2錠/日×21日間=21726.6円 1クール35日間の薬剤費は以下の様になる。

試算:5,264円+5,920円+21726.6円=32,910.6

パターン4.銘柄別収載最低薬価のマイラインの薬剤を使った場合の試算。シスプラチン点滴靜注液1020mℓ1瓶(日医工ファーマ・ヤクルト)×4瓶 40㎎ 薬剤価格@1,316円×4瓶=5,264円、シスプラチン点滴靜注液50㎎「マイライン」100mℓ1瓶(マイライン)×1瓶=5,232

エスケーエスワン配合カプセル(沢井製薬)及びエヌケーエスワン配合カプセル 25㎎カプセル(日本化薬)2カプセル501カプセル 薬剤価格@517.3円×2錠/日×21日間=21726.6円 1クール35日間の薬剤費は以下の様になる。

試算:5,264円+5,232円+21726.6円=32,2226

故に4パターンの1クールの薬剤費の比較は以下の通りとなる。

1パターン(新薬+新薬)58,5426円>2パターン(ジェネリック品+新薬)45,3216円>3パターン(ジェネリック品+ジェネリック品)32,9106円>4パターン(ジェネリック品+ジェネリック最低薬価品)32,2226

薬剤の有効成分量及び効果としては4パターン共にいずれも同じであり、国もジェネリック品の使用を推進しており、患者にとっては4パターンを選択すれば、1パターンの価格の4526,320円(58,5426円-32,2226円)倹約できる計算になり、その他、副作用対応に数種類の薬剤を使うので、全てジェネリック品を使えれば上記の銘柄別の価格差を見れば、患者負担は総薬剤費の45割で済みそうである。金額が高くなればなるほどジェネリック品の使用は負担減に繋がると言える。但し、この私の考えた合理的な試算であり、現実的でないかもしれない。一つの考え方として、シスプラチンを私に点滴静注する際、体表面積算定表にて90㎎と定めており、実際は10㎎を4瓶使わないで、50㎎(50㎎/100mℓ1瓶)2瓶100㎎を使って10㎎は廃棄処分している可能性もある。薬価とは新薬が薬価収載され、特許期間が切れた時点で、従来は第1次のジェネリック品が新薬(先発品)の7掛け程度の値段で収載され、更に次の追補収載、薬価改正時に第2次、第3次のジェネリック品が銘柄別に収載時毎に価格差を付けられて薬価収載されている。厚労省は薬価改正前に医療機関、医薬品卸で各製薬メーカーの実勢価格(病院への納入価格)を調査し、基本的には薬価切り下げ価格で薬価収載される事になる。その為、低価格になり採算が取れなくなると薬価取り下げ(販売中止)する事になる。問題点として、製薬企業は患者数の少ない希用薬(オーファンドラッグ)の開発は利益が出ないので開発せず、当然ジェネリックメーカーは先発権の切れた市場性のある品目で利益追求する為、必然的に患者数の多い薬剤の申請に注力する事になる。又、ジェネリック品が普及しない理由は医療関係者へのジェネリックメーカーからのDI(医薬品情報Drug Information)不足、サービス不足を表向きの理由に、新薬メーカーとの持ちつ持たれつの関係というか腐れ縁を断ち切れない事がジェネリリック品の普及の妨げになっていると思われる。

余談になるが、ランダ、ブリプラチンは昭和593月に薬価収載され、106,102円/瓶(現在は2,903円/瓶)、5027,478円/瓶(現在は12,793円/瓶)であったが、度重なる薬価改正で切り下げられ、現在は発売当初の50%の薬価になっている。更にジェネリック品は低薬価であるが、未だに利益が出る事を考えると、巷で言われている「薬九層倍」を実感できる。開発時に私が関与したカンプト注は平成64月に薬価収載され、創薬メーカーのヤクルトのカンプトは4010,860円/瓶(現在5,696円/瓶)、共同開発した第一三共のトポテシンも同薬価の10,860円/瓶(現在6,079円/瓶)、カンプト10023,970円/瓶(現在12,693円/瓶)、トポテシン10023,970円/瓶(現在13,763円/瓶)と発売20年後の現在、4050%切り下げられている。更に同時発売したトポテシンより、僅かではあるが現在は低薬価になっている。創薬メーカーではあるが、販売力の差が出たと、残念でならない。更に薬価収載時の平成6年時は厚労省との薬価算定交渉でノウハウがなかったのかもしれないが、シスプラチンの当時の薬価を参考にされ、シスプラチンの薬価よりかなり低く抑えられた記憶があり、ピカ新と自負していただけに、残念な思いをした事を今でも記憶している。