34稿 「癌と共に~延命から緩和へ・・・~」 2015826

1.    XELOX療法の自宅対応

1)   XELOX療法による副作用

1)手足のしびれと痛みは必発!

2)根気強い治療が必要!

3)精神的要因による吐き気・嘔吐は固定観念、不安感から?

4)自宅での副作用対応

2.癌治療雑感

 1)播種性転移癌の治療の難しさ

2)今後の治療の考え方

1QOL基準の理解の仕方

2ECOGPSと末期癌治療の考え方

 (3)癌性腹膜炎と診断された時の私の理解

 

1.    XELOX療法の自宅対応

エルプラット(オキサリプラチン)は7月27日に北大外来治療センターで点滴靜注し、2コース目の治療が始まった。同日夕方より2週間、自宅で朝・夕各4錠ずつゼローダ(カぺシタビン錠)を8月10日朝まで服用した。錠剤が普通より大きめで1回に4錠服用する事には大変苦労したが、自分で自分を励ましながら何とか飲みきる事が出来た。休薬明けの8月24日の血液検査での結果を楽しみにしている。XELOX療法におけるエルプラット、ゼローダの副作用と留意点については以下の通りである。

1)XELOX療法による副作用

(1)手足のしびれと痛みは必発!

 エルプラット(L-OHP;オキサリプラチン)を含むレジメンで注意すべき毒性としては、蓄積性の感覚性末梢神経障害がある。これはエルプラットの累積投与量との相関が示されており、680/㎡を超えるとgrade2以上の神経毒性が30%以上に出現する。効果が持続していてもこの毒性のために治療を継続出来なくなる症例も多く、さまざまな工夫が試みられている。末梢神経は、脊髄神経から枝分かれして、手足など体の各部分に左右対称に分布する神経で、感覚や運動をつかさどっている。この末梢神経が何らかの原因で障害されると、手足のしびれ、麻痺などの感覚異常がみられ、筋力・運動能力の低下が起る。再発治療等に用いられる事のあるエルプラットでは大部分の人に、何らかの末梢神経障害が起ると言われている。症状の現れ方は様々である。両手足のしびれから始まる事が多く、エルプラット投与後23週間から、手指や足の先端、足の裏にビリビリ又はジンジンする感覚がある。私の場合投与直後から冷水や冷えた缶ジュース等に触るとビリビリしびれる。一般に薬の使用量や回数が増えるに連れて、しびれの範囲と強さは増してくる。

(2)根気強い治療が必要!

 末梢神経障害自体は、致命的な副作用ではないが、日常生活に支障が出るので、対症療法として薬物療法が行われることがある。治療後も回復には長い期間がかかる。障害の程度によっては数ヶ月~1年以上かかることもある。重症のケースでは、障害の一部が残ってしまう事もある。現状では、末梢神経障害の確かな予防法や治療法はない。症状を早期に発見して医師と相談しながら根気よく治療を続ける事が大切である。症状がひどい場合は十分に休薬する。

(3)精神的要因による吐き気・嘔吐は固定観念、不安感から?

 抗癌剤の副作用の中でも脱毛と並んで吐気・嘔吐は良く知られている。抗癌剤が脳の嘔吐中枢やその受容体を刺激し、食道や胃の粘膜に損傷を与えることで吐き気・嘔吐が起こると考えられている。ほとんどの抗癌剤で見られるが症状の程度は患者によって様々である。私の様に脱毛が全く出ない場合もある。私の様に胃は無いのに精神状態に左右されるのか「抗癌剤を使うと吐き気や嘔吐が起る」という固定観念、あるいは「また起きるのではないか」という不安等と思えるが、症状がなかなか治まらないようである。又、いったん落ち着いても、しばらくすると吐き気や嘔吐が起る。吐き気や嘔吐は多くの場合、長くても数日で症状が治まる。その事を理解した上で、精神的にリラックスする為に庭に出て食物と触れあい、人とおしゃべりする事も大切なようである。

4)自宅での副作用対応

 7月27日北大でエルプラットを点滴静注し、27日、28日は冷たいものに触れると手足の指先が敏感に瞬時にピリピリ、ビリビリした。ミニトマトやキュウリを素手で収穫してもピリピリした。車中の冷風にあたるだけでもピリピリした。ゼローダ服用中は食欲不振、悪心・嘔吐、倦怠感があり、ベッドに横たわっている事が多かった。右尿管にはステントを留置したが、思ったほどの改善は見られず残尿感は払拭されていない。口腔内の極度の乾燥、舌の湿疹、全身の掻痒感もあったが休薬期間の10日目から口腔内の乾燥は改善しないが、その他の症状は改善傾向となった。口腔内乾燥対応にモロヘイヤやオクラのネバネバ成分を加工して口腔内に噴霧する商品が開発出来ないものかな。高齢者は酵素分泌が低下していくので対象患者は増え続けると考えられるので、メーカーにとっては狙いどころではないかと思うが…。

 

2.癌治療雑感

 一昨年6月に横行結腸に再発転移胃癌が認められ、私の胃癌の治癒は絶たれ、残された治療は延命、症状緩和を目指す事になり、今後はQOL(生活の質)を重視する事になった。切除不能と判断されたStageⅣ・再発症例は、基本的には治療は望めず、治療目的は延命と症状緩和となる。症状緩和の為のBSCbest supportive care;緩和ケア)のMST(median survival time;生存期間中央値)は約8ヶ月と報告されているが、PSperformance statusECOG米国東部癌治療共同研究グループで提唱、患者の全身状態の指標)02の症例を対象としたRCT(randomized controlled trial;ランダム化比較試験)で、化学療法はBSCよりも優位に生存期間を延長させる事が示されている。

高齢者とは行政的には65歳になると前期高齢者、75歳になると後期高齢者と呼ばれるが、臨床試験では70歳以上あるいは75歳以上と設定するのが一般的である。私の場合再発転移胃癌時は臓器機能、PSも良好であり薬物療法は一次治療SP療法、二次治療パクリタキセル単独療法、三次治療カンプト注単独療法を行い、それなりの延命効果は得られたものと思っている。現在は四次治療としてXELOX療法の2クールを実施中である。抗癌剤による効果を期待しつつも、我が身は明らかに加齢に伴い臓器機能低下により、臨床的検査に反映されない潜在的臓器機能低下が見られるようになってきた。具体的には消化管吸収低下、骨髄機能低下、体内水分量低下、アルブミン値低下、肝・腎機能低下が生じ、少し前まで「全身状態は特に問題は無い」とは言ってきたことが怪しくなって来た。特にPET/CTで腹水が認められてからは、今後は急速に癌が進行するのではないかと懸念している昨今である。

1)播種性転移胃癌の治療の難しさ

 私の癌細胞は原発巣の胃より癌細胞が播き散らされるように腹膜に拡がっており、癌薬物療法の効果判定基準では測定可能病変が無い為に効果判定できず、専ら臨床検査値、PET/CT画像及び主治医の診断(主観)に委ねられている。私は既に腹膜に転移していることでいずれ腹水への貯留も考えるので、「癌性腹膜炎」に移行すると自己診断していた。腹膜への転移は超音波画像やCTMRIなどで診断し、腹腔に穿刺針を刺して腹水を採取し、腹水中に癌細胞が見つかるはずである。腹膜播種は切除が難しい転移であるので、その為治療は抗癌剤による全身化学療法が中心になり、抗癌剤の効果があれば腹水も減少していくのではないかと思っている。既に進行して癌性腹膜炎を起こし、腸管が狭くなって腸閉塞を起こしている現状では、抗癌剤を有効に働かせるために、治療の弊害となる水腎症(尿路の確保)を治療すべく尿管にステントを留置し、腹部には既に人工肛門(ストーマ)を増設し対応しているが、腫瘍マーカーは右肩上がりに増加しており今までの所これといった治成果は得られていない。CEACA19-9の数値が5回連続して上昇し、グラフを描いた時に右肩上がりに増加しており、明らかに癌の増殖が考えられる。その為に主治医は腹部・胸部・骨盤にわたるCT検査を中心とした検査を行ったが、難しい段階になって来たことを感じた様である。

2)今後の治療の考え方

 最終的には私自身や家内が話し合って治療継続するかしないかを決める。これから先、何を第一に考えるかと言う事である。QOL(生活の質)を高める事を優先するか、少しでも長く延命する事を優先するかを考えていく事になる。そして無理して延命しなくても良いし、残された時間を有意義に過ごしたいと結論づけるのであれば、いったん癌治療は終了し、癌に伴う症状の緩和のみの治療に切り替える事も考えられる。

私は訪問医の戸井医師、花摘看護師に在宅ケアしてもらい、治療を断念しても生きる目標を失わず、自宅で日常生活の質、人生の質、生命の質を出来るだけ良く保ち豊かな気持ちで生きていく事を大切に考えたいと日頃から思い描いている。私のX-dayが癌の治療をしてもしなくても同じである感じる時が来たら、癌と闘う意味も薄れるので自宅での緩和ケアを選択し、家内(理解と了解)には余生の生活、在宅ケアの医師、看護師には、癌増殖に伴う副作用のケアを一任する事をお願いし、三者には心よりご理解頂いている。

癌患者の暮らし方・生き方、全身状態を表す記号としてQOLPSは医師よりよく発信されるので以下に紹介する。

1QOL基準の理解の仕方

私はQOLのことは、医薬品開発者と言う立場で、ごくシンプルにクオリティ・オブ・ライフ(quality of life)生活の質と理解し日常説明してきた。実はライフの多次元的な意味を考えると、文脈によって「生命/生活/人生の質」と多様に表現されている。

QOLという概念は、主として医療現場において、特に私のような癌の末期患者におけるターミナルケアや尊厳死との関連で用いられる事が多い。患者の心身の総合的状態の質を数的指標によって表したものと見る事が出来る。経済学的/社会学的/哲学的(宗教的)にも用いられる言葉であると思われるが、医学的には生命倫理的な問題で、生命の選択や尊厳死、神聖なる生命、ターミナルケアとの関連でクオリティ・オブ・ライフに着目するものであり、如何に人間らしい有終の美を迎えるかと言う事である。

生活の質としてのQOLについては、1990年以降は、保健医療分野での展開が世界的にも著しく、QOL概念と尺度は、治療法やリハビリテーション技術などの選択基準や効果指標など評価基準として広く用いられている。またWHOの下で1990年代に新しく開発されたQOL概念と尺度は、身体面、心理面、社会生活面、環境面の4大領域から成り、健康と幸福を合体した概念の尺度として、個人レベルから集団、地域、国レベルまで、さまざまなレベルでのQOLの測定・比較に用いられている。生活の質と訳される場合のQOLは、ある病態についての本人の主観的評価をさし、これは医療者側から見た手術成功率や生存率だけでは測りきれない患者自身の主観的な満足度や暮し易さを医療の質の評価に取り入れようとした概念である。生命の質というと、その人の状態を、その人自身を評価し価値づける基準となり、ひいては生命の存続に関わる選択のために用いられるからである。そして、医師による自殺幇助や積極的安楽死を望む人自身においても、QOLを基準に生命の価値づけが行われる場合がある。QOLの低下した状態が自らに訪れることに耐えられないから、積極的安楽死を選ぶ、あるいは、QOLが耐えられない程低いから自殺したいが、自分では死ねないから自殺幇助を受けたい切望する。どんな生活をQOLが高いとし、どんな生命をQOLが低いとすべきか、あるいはすべきでないかを問い直していく必要がある。QOLを分かり易く説明する事はとても難しいので今後も「生活の質」という一言で病状の状態に応じて考えていけばいいのではないかと私は考えている。

2ECOGの提唱するPSと末期癌治療の考え方

癌化学療法は原則として後述のPSperformance status02の患者を対象とし、PS3以上になると投与の必要性をよく考慮し、患者に十分な説明と同意を得た上で実施すべきものである。私の再発後の身体的状態はPS0であったが2年を経過した今日、徐々にPS1,あるいはPS2に移行しつつあるように感じている。二次治療から今日の四次治療までのエビデンスは乏しいが、治療にあたってはPS、初回医療の内容や経口摂取の可否などを参考に決定している。癌薬物療法の対象となる癌腫の大半は難治癌であり、治療の殆どに抗癌剤(殺細胞薬)が含まれる。抗癌剤の投与量設定は副作用の許容範囲内で、より高い抗腫瘍効果を示す用量が理想的であるが、効果に重点を置いた高い投与量では副作用の発現頻度が高まり、時に致命的となる。抗癌剤では治療域と副作用域が近接しているためである。抗癌剤では治療域が非常に狭く、副作用が不可避となる。実地医療の現場で癌薬物療法を行う場合は、治療の適応と限界を十分に見極める必要がある。私に用いられた抗癌剤は、胃癌に対して標準療法もしくはそれに準ずる治療として確立されている事、PS、栄養状態が良好な事、適切な臓器機能(骨髄、腎、肝、心、肺機能など)を有する事、医師とのICが得られている事が条件となって選択されている。

主治医は私・家内とのICinformed consennto;患者本人が医療行為について正しい説明を受け、十分理解した上で自発的な選択・同意・拒否をすること)において治療により期待しうる効果と、それに伴う不利益・リスクを明確に私達に伝えた上で治療を行っている。治療目的が延命・症状緩和などによることで、私及び家内の考え方・生き方も変わるのである。治療効果・予後にはバラツキがあるため、治療結果を正確に予測することは不可能であるが、再発胃癌・末期癌である事を理解し、治療目的(あり方)をお互い冷静に判断しなければならない現状である。

PS 0 無症状で社会的活動が出来、制限を受ける事無く発病前と同等にふるまえる。

PS 1 軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、経労働や座行は出来る

PS 2 歩行や身の回りのことは出来るが、時に少し介助がいることもある。軽作業は出来ないが、日中50%以上は起居している。

PS 3 身の回りのことはある程度できるが、しばしば介助がいり、日中の50%以上は就床している。

PS 4 身の回りの事も出来ず、常に介助がいり、終日就床を必要としている。

3)癌性腹膜炎と診断された時の私の理解

癌性腹膜炎は、癌細胞が播種性に腹膜へ転移し、腹水貯留、腸閉塞、尿管閉塞等の症状を引き起こす。臨床症状は、自覚症状としては腹部膨満感、腹痛、食欲不振、悪心・嘔吐、便通異常、尿量減少などで思い当たる事ばかりである。他覚症状としては、るい痩、腹部膨隆、腫瘤触知、下肢のみの浮腫である。病態がさまざまであるため、対症療法が主体とならざるをえない事が多い。癌性腹膜炎は進行した腹腔内臓器の腫瘍に伴って認められる事が多い。私の場合、原発巣は胃癌で腹腔内臓器に転移した後に、腹腔内散布を起こしたものと考えられる。腹水は、正常でも50ml程度存在している。癌細胞が腹腔内播種を来すと、腹水吸収機構が閉塞し、かつ、VEGF(血管内皮増殖因子)産生などによる透過性亢進や腹膜中皮細胞の障害による腹水産生の亢進が並行して起こる。故に単なる腹水穿刺では数日後に再貯留をきたしてしまう。この作業は決して改善していくのではなくて徐々に体力を消耗していくもので出来れば避けたいと思っている。取り敢えずの腹水対策として家庭医の戸井医師と相談して、先ず利尿剤を用いて腹水の減量を試みた。

癌性腹膜炎に伴う腹水では利尿剤の有用性は低く、改善は40%程度との報告がある。使用時には、低Na血症、低K血症、高K血症などの電解質異常および腎機能障害に注意する必要がある。治療薬はラシックス(フロセミド)20㎎錠を朝方服用している。腹水だけを上手に排出する訳ではなく体全体から水分を体外に排出するので、更なる副作用も生じそうで、私はラシックス服用にはあまり期待していない。一方で、輸液で水分を大量に補充している現状も合理的でないと判断したので、121314日にラシックスを3日間服用したが腹水の増減は無い様に感じ、よって腹部膨満はさほど進行しておらず安定しているので私の判断で服用を中断した。

癌性腹水の診断は以下の様に実施して、診断を確定するようである。

1)身体所見

  腹部打診で体位変換による濁音界の変化や波動触知(腹水の確認)

 直腸触診でDouglas窩に腫瘤触知(Schnitzler転移)

2)画像診断

  腹部超音波で少量(約100ml)の腹水も検出可能。水腎症所見(腎盂の拡張)が認められれば、癌性腹膜炎による尿管閉塞機転を疑う。腸管の拡張、液体貯留像が得られれば、腸閉塞を疑う。

3)腹部CT

  腹水の存在、壁側腹膜の肥厚・腫瘤、小腸壁の肥厚、大網の肥厚・結節、尿管閉塞よる水腎症所見

4)腹部単純X

  側腹部線状と結腸の間の増大、腸管のガス像が腹部中央に集中。

5)検査項目

  腹水中の検査項目は、アルブミン、総タンパク、LDH、細胞数、糖、細菌検査、アミラーゼ、TGT-Bil、などが主として測定される。癌性腹膜炎の場合は、血清と腹水のアルブミン値の差が1.1/未満である事が多く、その正診率は95%である。血清のアルブミン、総タンパク、LDHなども必要である。腹膜転移のみの腹水例では、約95%が腹水中タンパク2.5g/以上となる。

6)腹腔穿刺

  腹水の増加による腹部膨満感や呼吸困難が高度の場合に行う。穿刺部位は超音波で確認し決定する。大量の腹水を短時間に排液すると低血圧や悪心、ショックなどの危険性があるため、患者をモニターしながら慎重に施行する。排液後には患者の症状は、約90%に軽減するが一過性で数日のうちに再貯留する事が多い。排液によりタンパク喪失・電解質異常をきたし、全身状態を悪化させる場合や感染のリスクが高まる可能性がある。あくまでも利尿剤に反応を示さなくなった症例または症状緩和のための一時的処置である。

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