第10稿「癌と共に~癌患者の日常~」   2014212

 

1.      忘れないうちに胃全摘後の入院時の日常を…

2.      胃全摘後の食事

3.      腸閉塞手術後の生活の変化

4.      日常の食事

5.      SP療法3クールの評価

6.      何故胃癌が私に…

7.      転移と再発の微妙な違い

8.      私の考える癌の発生について

9.      胃癌の発見を手遅れにしない為に

10.                  胃癌、特にスキルス胃癌とは

11.                  癌診療の流れ、自分の癌を知る

 

ソチ冬季オリンピックでモーグルの上村愛子さんが4位になった。彼女も日本国民もメダルを期待したが、私は仮に彼女の目標が金以外の銀、銅で完結すれば、今後の彼女の人生にとってはさほどの名誉にはならなかったように思うし、7位、6位、5位、4位と積み重ねてきて、最高の滑りにも関わらず4位になり、かつ、彼女自身も清々しい気持ちで競技人生を終える事が出来たとコメントしたことの方が価値ある結果であると思うし、我々の記憶にも残ると思っている。おめでとう!

 

1.      忘れないうちに胃全摘後の入院時の日常を…

胃全摘時は全身麻酔・硬膜外麻酔で何も記憶にない。病室で「鵜木さん、鵜木さん!」と呼ばれて覚醒すると5,6人の医師、看護師に囲まれていた。麻酔の影響がなくなって頭がすっきりすると私の体には鼻から胃管、右鎖骨上から点滴、口からは酸素吸入、左手首には輸血用の管、臍の左右には腹腔内に手術時に貯留した血液を排出する管、陰茎には尿管の計7本が付いていた。翌日から輸液ポールを引きずりながら院内を歩き回るように指示され、歩けるのかと疑問に思いつつも7本の管を付けてよたよたと言われるがままに歩いた。自由に動けないのでロボットの様で自嘲の笑いをもらし、こらえるしかなかった。術後2日目より水の摂取が許され、術後4日目より重湯、9日目には7分粥になった。管は、4日後に酸素管と尿管が抜かれ、5日目には輸血管、8日後には腹部の管1本、9日後には残りの腹部の管1本と鎖骨上の点滴管が抜かれた。自由に動けるようになったが、痰がたまり、腹圧をかけて吐き出そうとしても傷口が痛み、去痰薬の服用や機器を使っても上手くいかず苦労したが、痛みを我慢して腹圧で吐き出すしかなかった。シャワーは術後8日目に使えてとても気持ちが良かった。入院中は、回復状況を確認する為、採血、レントゲンが頻繁に実施された。食事は、胃が無い事で必要量を食べられなくて、手術後20kg以上痩せて、その後もダンピング症状に悩まされ普通に食べられるまで数ヶ月を要した。

 

2.      胃全摘後の食事

前述した様に私は胃・胆嚢を切除しており、入院中は水・お茶・ポカリスエットから徐々に消化管を慣らしていき、重湯、三分粥とビスケット・プリン・ヨーグルト・マッシュポテト・半熟卵、五分粥とジャムサンド、七分粥とみかん・桃缶詰、全粥、常食になった。当初は食事が詰まり苦しい思いもしたし、食欲不振にもなった。胃全摘した事で食物を消化出来ず、口腔内・食道から直接腸に流れ込むことによって、食べてすぐにダンピング症状が起こる事が原因であった。私の場合は悪心、吐き気、下痢が主たる症状であった。退院後は家内が消化・吸収が良く、脂肪分の少ない栄養価の高い食材で食事を作ってくれたが、食事のペースをつかむことに時間がかかり、食事量も増えず、胃を切除したことで消化吸収が悪く、体重は減る一方であった。お粥、脂肪の少ないひれ肉、白身魚、卵・豆腐・納豆、ヨーグルト、プリンを中心とした食事で、黄緑赤色野菜類、ミルクセーキ、乳酸菌飲料、ココア等を意識して消化の良い食事を作ってくれた。カルシウム、ビタミンD,特に鉄分、ビタミンB12を多く含む食材で食事を作り、飲料類にも配慮してくれた。そのお蔭で数ヶ月後には徐々に食事量も増え、体重も50kg位で下げ止まりになった。感謝である。

 

3.      腸閉塞手術後の生活の変化

 肛門からの自然排便を人工肛門(ストマパウチ)から排出することになった。朝・夕1回の排便習慣が崩れ、制御不能の排便となり、夕食は7時に済ませ、以降は一切食べないようにして、水か、お茶だけにした。就寝前に消化管(大腸)に貯留する食物残渣(糞便)を輩出して、就寝時にストマパウチに糞便が溜まらないように心がけた。抗癌剤服用中、休薬1週間くらいは、腎機能を維持する為に毎日水(水分)2ℓを飲むように言われているので、午前2時、4時頃目が覚めてトイレに行っている。パウチ内の処理を当初は自分の糞便ながら、どうも馴染めなくて薄いビニールの中の糞便の感触が気持ち悪くて投げ出したい気持ちになった事もあったが、生きるために仕方ないとあきらめた。段々慣れてくると、パウチ内の食物残渣を観察出来る様になり、赤飯のゴマやわかめ、小松菜、肉の繊維、魚の小骨等が未消化でストマから排出され、口腔内でよく噛まないといけないなと思える様になった。消化の悪い食物は、幼い頃、食い物は30回以上良く噛んでから呑み込むようにと父親から言われていた事を思い出して30回は良く噛んで食べるようにしている。時代が変わりトイレも和式から洋式に、風呂もスイッチ一つで用が済み、シャワーも完備し、人工肛門の患者にとっては、パウチの脱着も自宅で衛生的に、かつ簡単に出来て、恵まれた時代に生まれてきているなと思っている。

4.      日常の食事

 近所の年寄りの知恵で、私が栽培した大蒜のひとかけらを家内が電子レンジにかけ、チーズと大豆の酢漬けを毎夕食前に食べる様に用意してくれる。特に食事の制限はなくその時食べたいものを少々贅沢と思いつつも食べている。外食も気分で贅沢させてもらっている。外で酒を飲む事を考えると食事代は安いものである。晩酌は家内が赤ワインで、私は、抗癌剤服薬中は、気分によって焼酎ロック、お湯割りを少しだけ嗜んでいる。年末は4男の健が来てくれ、大晦日に魚屋で大きめの毛ガニを3杯買って一人一杯づつ食べたが、食べ終えるまで1時間かかった。一杯食べると結構お腹が満たされる事を知った。人生、たまの贅沢も楽しいものである。

 

5.SP療法3クールの評価

1月16日CT造影検査後、1月23日に外来で結果について主治医の小松医師より説明を受けた。課題の白血球値は5700/μℓ、好中球も57.7%に回復し、肝機能・腎機能共に正常であり、CT画像でも転移癌は認められず、治療は順調に進んでいる。23日より4クール目がスタートし、30日には入院しシスプラチンの点滴静注を行う。今後CTPETで確認し、癌が認められないなら治療終了とし、ストマを解消する手術も考えられる。これが実現すれば今の私にとっては最高のプレゼントになり、それ以上、もう何も望むものはないと思っている。

 

6.何故胃癌が私に…

1)      胃癌の発生、そのリスク要因

喫煙や食生活等の生活習慣やヘリコバクターピロリ菌の持続感染が癌化の原因になり得ると評価されている。特に食生活については塩分の多い食品の摂取や野菜、果物の摂取不足が指摘されている。ピロリ菌については日本人の中高年の感染率は非常に高く、若年層では低下しており、感染した人の全てが胃癌になる訳ではないが癌化の可能性は高いと言える。

2)      胃癌の疫学・統計

日本では女性より男性の方が罹患率は高い。癌で亡くなった人数では胃癌は第2位、東北地方の日本海側で高く、南九州、沖縄で低い。

3)      故に…

私は終戦一年前に生まれ、幼い頃から粗食で、幼児期から定年になるまで癌になる食生活とは対極の菜食、魚中心で過ごしてきており、喫煙も体質に合わず、出身は鹿児島で有る事を考えると、胃癌にはなりにくい条件・環境下(地域)にあったはずであるが、癌に罹患した。強いて癌罹患を考えるならば父、二人の兄が癌に罹患していたので私もその体質を受け継いだと言う事であろうか。 

 

7.転移と再発の微妙な違い

私の胃癌を活字で説明すると「胃癌は胃全摘及び胆嚢摘出で肉眼的には完全治癒切除出来たものの実際は手術前に既に転移しており、2年後に大腸の横行結腸に病期Ⅳの転移進行胃癌として再発した」という理解をしていた。

転移とは、癌細胞がリンパ液や血液の流れに乗って別の臓器に移動し、そこで成長したものをいう。最も多い胃癌の転移はリンパ節転移で早期癌でも起こる事がある。リンパ節転移は手術で広い範囲のリンパ節を完全に取り除いて治る可能性のある転移である。次に多いのが腹膜転移と肝転移で、進行した癌の一部に見られる。この転移は治療が難しいという問題点がある。又、癌を手術で全部切除出来た様に見えても、その時点で私の様に既に癌細胞が別の臓器に移動していた様に、手術した時点では見付けられなくても時間が経ってから転移が見つかる事がある。

再発とは、治療の効果により目に見える大きさの癌が無くなった後、再び癌が出現する事をいう。再度手術出来る場合はまれで、以前使用していない化学療法による治療を行う事が一般的と理解していたが、今回、同室の食道癌患者の例では7回目の内視鏡手術を行い、かつ術後補助化学療法もしているので知識を確認・修正しないといけない様である。再発と言ってもそれぞれの患者の状態は異なる。転移が生じている場合は治療方法も総合的に判断する必要がある様である。

以上のように転移と再発は同義語の様で若干意味合いが異なると言う事が分かると思う。私の転移進行胃癌は再三述べている様に病期Ⅳであり、状況は厳しく、全がん協加盟施設や胃癌学会で示すMSTを参考にすると、今、順調な治療経過であっても手放しで喜べる状況ではないと思っている。

 

8.私の考える癌の発生について

癌化については前述したが、「癌は、正常細胞がなんらかの原因で変化して癌細胞に変化して増殖する事で起こる・・・」という説明が一般的であり、「何らかの原因」というレベルを考えると未だ明確には癌の発生についてのエビデンスはないと考えるべきかもしれない。確かに寿命が延びて、多くの有害な化学物質や食品添加物、家族が癌系統であるとか、いろいろな原因は判明しつつある様である。最も基本的な事を考えると、高齢化に従って癌患者が増える事を考えるならば、免疫力が減退して、本来正常な働きをしていたホメオスタシスや免疫監視機構の働きにかげりが見えはじめ、免疫監視の抑制のとれたところで、内在していた癌細胞が誰憚ることなく暴れ出した結果であると感じている。この現象が個々の寿命に繋がっており、寿命を結論付けていると私は思っている。さらに雑駁な知識で恐縮であるが、持論?を述べるならば、・・・

人は、この世に生を受けた時、60兆個、260種類の細胞を有していると言われている。消化管の上皮細胞や赤血球、骨細胞、心筋、中枢神経細胞等は、それぞれの寿命期間はあるもの、細胞回転?(再生、細胞分裂の回数…不確かな記憶だが)する事で生命を維持し、反して心筋と神経細胞は、二度と細胞分裂しない細胞であり、心臓や脳に血液が行かなくなって細胞が死ぬと、心不全(心臓の機能が喪失)や脳にある神経細胞が壊死し、心筋梗塞や脳梗塞で生命の危険を及ぼすのである。しかし、最近の再生医療の研究によると、今迄生まれてくると二度と細胞分裂しないと思われていた脳の神経細胞でもよみがえる力、即ち細胞分裂して再生を持つことが分かってきた。天命と言える寿命の延長も、腎臓や肺の機能低下、筋力低下等の生体機能の低下を遅く出来ればQOL(quality of life)やADL(activities of daily living)が改善されて健康寿命は延びている様である。

人の寿命は「2002長寿科学総合研究報告書」によれば、日本人男性で115歳、女性で122歳が推定しうる人寿命の限界年齢であると言っている。この年齢を寿命の目標におくと、減点法でそれぞれ人は寿命を全うする事になる。つまり諸々の病気に罹患して生体の機能が弱まっていき、個々の寿命が100歳になり、80歳になりと言うように短くなって行くのである。生き続けると寿命はいろいろな影響を受けて短くなっていくのである。

癌、心疾患、脳神経疾患等の加齢、関連疾患が克服されていない現状では人の寿命は生物学的(生理学的)老化速度によって決まると言うよりも、このような疾患に対する罹りやすさによって決まるといっていい。日本人が世界最長寿であるのは遺伝子の違いではなく、日本食が世界遺産に認定されたように食事のライフスタイルの影響が大きいと考えられている。

ホメオスタシス(恒常性の維持)の働きも同様で、老化や寿命に影響を与える罹患によって、若い時のように働かなくなり、自然治癒力が衰えてきたと考えるのが合理的である。ストレスになり得る外界の環境の変化に対して、生体を安定した恒常的状態を保とうとする仕組みを維持できなくなり、神経、免疫、内分泌系(ホルモン)の相互作用によって維持するのが難しくなってきたと言う事である。人は外部環境の変化や食物の影響にも関わらず、体温、血糖値、血液酸性度等の生理的状態を一定に保つ事、及びその仕組みが正常に働けば、主として自律神経と内分泌等の働きによって維持され、血液の緩衝作用や腎臓の浸透圧調整も出来ると言う事である。健康維持に害をなす異物排除の役割を担う免疫監視機構は体内に発生した癌細胞を殺して癌になるのを防ぐ仕組みをもっており、癌になりにくい人の体内では、免疫細胞(特にNK細胞)が活性化しており、癌細胞が発生しても増殖を抑制するので癌になりにくい。一方、癌になり易い人は、生まれつき生活習慣、加齢等、様々な要因で免疫力が弱まってしまい、NK細胞の活性度が弱まり、体内の癌細胞は抑制が効かず増殖してしまう。ホメオスタシス、自然治癒能力、免疫監視機構の再構築が出来れば・・・否、それぞれの機能減退は人にとっては避けられない寿命、あの世へ還る初期シグナルなのであろうか。

 

9.胃癌の発見を手遅れにしないためには

胃癌は早い段階で自覚症状が出る事は少なく、かなり進行しても無症状の場合がある。代表的な症状は胃の痛み、不快感、違和感、胸やけ、吐き気、食欲不振等があるが、これらは胃癌特有の症状ではなく、胃炎や胃潰瘍の場合も起こる。検査をしなければ確定診断は出来ないので、症状に応じた薬を飲んで様子を見るよりも、先ず医療機関を受診し、検査を受ける事が重要である。症状の原因が胃炎や胃潰瘍の場合でも内視鏡検査等で偶然に早期胃癌が発見される事もあり、貧血や黒色便が発見のきっかけになる場合もある。食事が喉を通らないで詰まる、体重が減る、と言った症状は進行胃癌の可能性もあるため早めに医療機関を受診する必要がある。

 

10.胃癌、特にスキルス胃癌とは

1)胃癌

胃癌は胃の壁の最も内側にある粘膜内の細胞が何らかの原因で癌細胞になって無秩序に増殖を繰り返す癌である。胃癌検診で見付けられる大きさになるまでには、何年もかかると言われている。大きくなるに従って癌細胞は胃の壁の中に入り込み、外側にある漿膜やさらにその外側まで広がり、近くにある大腸や膵臓に広がっていく。癌がこのように広がっていくことを浸潤という。細胞の分類としては組織型(顕微鏡で観察した癌細胞の外見)のほとんどが腺癌で、分化度は大きく分類すると、分化型と未分化型に分けられる。

腺癌:体を構成する組織のうち腺組織と呼ばれる上皮組織から発する癌である。

分化度:人の体を構成する細胞は1個の受精卵に由来し、細胞分裂を繰り返すうちに様々な機能や形態を持つ細胞に変化する。これを細胞の分化という。成熟の度合いに応じて未分化、低分化、高分化等と表現される。

分化度の低い(未分化・低分化)細胞は活発に増殖する傾向がある。癌細胞は病理検査・病理診断によって分化度を調べる事で、悪性度の評価や抗癌剤に対する治療効果の予測等を行う。

 

2)スキルス胃癌

通常の転移は血液やリンパ液の中に癌細胞が入り込み他の臓器に広がっていくが、播種性転移では胃壁の外にこぼれた癌細胞が腹膜に小さな種を蒔いたように拡がっていく。進行がとても早いスキルス胃癌でも腹膜播種や多臓器への転移がなければ根治的な外科手術が出来る可能性もあるが、腹膜播種が認められる症例では手術切除はほぼ難しいのが現状である。

スキルス胃癌は胃壁全体が硬くなっていくので、上腹部に硬い腫瘤として触れる事がある。また腹膜転移をきたした場合には腹水貯留がある。スキルス胃癌が後腹膜へ進展すると尿管に浸潤し、尿管が閉塞して水腎症をきたすことがある。

3)スキルス胃癌の進行度(病期、ステージ)と5年生存率 

進行の早いスキルス胃癌は見つかった時に既に腹膜への転移をきたしていることが少なくない。

ステージⅣ期の5年生存率は7.2%から16.6%で5年間再発しないと言う事ではなく、衰弱しても生存していればカウントされる数値で、治療開始から5年後に生存している人の割合である。

 

11.癌診療の流れ、自分の癌を知る。

癌の疑い⇒受診⇒検査・診断⇒治療法の選択⇒治療⇒経過観察

1)      情報収集 

担当医は最大の情報源であるので、分からない事は遠慮なく質問し、自分自身で集めた情報が正しいかどうか担当医に確認することをすすめる。患者自身にとって知識は力なりと言いたい。

癌に対する心構えを言うならば、積極的に治療に向き合う人、治ると言う確固たる信念を持って臨む人、なるようにしかならないと受け止める人と癌患者の考え方は様々である。自分の病気の状態、近郊状況を良く知っておくことが大切である。

2)病状や治療方針、今後の見通しについて

主治医からきちんと説明を受け十分納得した上で癌に向き合う。情報不足は不安と悲観的な想像を生み出す。自分の病状を知った上で治療に取り組みたいと考えていることを担当医や家族に伝える。素直に話し合い信頼関係を強くし支えあう。

 

 

第11稿は庵主の疑問に・・・

癌治療に関しては歴史が浅い事もあるが、最先端の癌医療の矛盾もあり、治療エビデンスが曖昧模糊としている現状であると言った私への庵主への質問に私なりに答えてみたいと思う。

 

以上 No.9   No.11