第11稿「癌と共に~主として薬価収載抗癌剤の概略~」

1.      SP療法4クール目の入院

2.      序章、免疫について

3.      薬価収載されている抗癌剤

 

はじめに

ソチ冬季オリンピックで羽生結弦君がショートで100点を越え、日本男児の初の金メタルの可能性を感じた。医師に退院後も多量の水分を取るように指示されていたので、未明にトイレに行く事が日常化し、眠れなくてテレビのスイッチをオンにするとフリーで羽生君が2度ジャンプで失敗し、私はため息を漏らした。金メダル最有力のパトリックチャンの最初のジャンプが見事に決まり、再度のため息、私はパトリックのジャンプ失敗を念じてしまった。結果、数度のジャンプ失敗で彼は銀メダルに終わった。冷静になると「パトリック、ゴメン!フェアじゃなかった」と反省。私もごく普通の日本人と言う事か・・・・・。

更に感動を貰った葛西君のラージヒルジャンプの銀、ジャンプ団体(葛西、清水、竹内、伊東)の銅、ノルディック複合の渡部君の銀、スノボー大回転の竹内さんの堂々たる銀、ハーフパイプの新人類の平井・平岡君の銀、銅メダル獲得、おめでとう!

徹夜して応援したフィギアショートの鈴木、村上、浅田さん、惨敗。明日のフリーでは1,2,3位との差があり過ぎてメダルは絶望的。キムヨナの安定感と精神力の強さに脱帽、私のソチ冬季オリンピックは終わった。

 

1.      SP療法4クール目の入院

 入院期間:平成26年1月30日(木)午前10時~2月5日の6日間であった。

TS-1服用期間:平成26年1月23日~2月12日、朝・夕各25mgを連続21日間服用。

シスプラチン:平成26年1月31日に90㎎を点滴静注(4クール開始9日目)。

休薬期間:平成26年2月13日~2月26日の2週間。

1月30日午前10時、入院手続き後、北大病院2階病棟237号室4人部屋に案内された。本来12階の病棟に入室するものと思っていたが、12階の病室には空室がなくて2階のリハビリ病棟への入室となった。北大構内の景色を見ながらの日々が無くなって残念。

1)      副作用対応薬

SP療法の副作用発現を抑えるbest supportive careBSC)は自宅では行えないので、35日おきの入院は止むを得ない事である。常法通り入院1日目は午後5時より補液(フィジオ140 1000ml、ヒシナルク3500ml)を翌朝の10時まで流し、2日目も引き続き10時より24時間、同時に生理食塩水500ml2時間投与し、11時半には吐き気止めのイメンドカプセル120㎎を内服した。生理食塩水が終わると更に吐き気止めのアロキシバック0.75㎎、デカドロン9.9㎎を補液に入れた。12時半に治療目的のシスプラチン90㎎と生理食塩水500mlを入れ、14時半より1時間かけてマンニトール300ml、引き続き4時間かけて生理食塩水1000mlを入れた。2日目で実質的には治療は終わった事になる。残りの5日間はイメンドカプセル80㎎、デカドロン6.6㎎靜注し、吐き気を抑え、シスプラチン、TS-1の毒素を排出する為に毎日1000ml以上補液(水のこと)を入れ、さらに経口からも11000ml飲まされた。この一連の補液靜注と1日1000mlの飲用はシスプラチンによる腎臓への影響を低下させるためである。最終的にはシスプラチン靜注時前の体重が2kg以内の増加で有れば腎機能にも問題無しとし、又、血液検査で白血球の極端な低下が無ければ退院となる。幸い今回は治療以外でストマパウチの不具合で糞便が漏れ、看護師に余計な仕事をさせたが、治療は予定通り完了した。退院前日に岐阜から友人夫妻が見舞いに来てくれたので、翌日の退院時に札幌市内のホテルで食事をし、抗癌剤の影響はあると思いつつ、ついビールを1杯飲み、数日苦しい思いをした。退院後もTS-1を1週間連日朝夕服用したので、副作用から解放されたのは退院2週間後の事であった。今は通常通り快適にたまかな生活に戻っている。

2)      同室の入院患者

4人部屋で2階のリハビリ病棟であった為、比較的元気な患者との日常を和気藹々と過ごせた事で、あっという間の入院期間であった。以下、患者紹介…

  堀○ 保さん、44歳、くも膜下出血で記憶障害発現、職業は運送業、旭川出身

会社で気分が悪くなり帰宅して倒れ、3日目に脳神経外科に入院するも記憶障害に陥り、北大に転院し、既に1か月入院して居る。数分前に話したことが記憶できず、常に電子手帳に重要な事は入力していた。奥さんに離婚を提案したら、待っていたとばかり承諾されてしまいショックを受けたと言い、高校3年の娘にも離婚を言い出したことで信頼を失ったと言う。翌日、老婆心ながら詳細を聞くと不思議な顔で、自分の言動を記憶していないのである。1週間の間、誰も見舞客は無く、院内のソーシャルワカーの女性に精神障害者福祉手帳の申請について相談していた。北大入院前にハローワークで就活しても職にありつけず、手帳を入手して就活に有利な障害者枠で職を求める算段らしい。入院の目的は医者の診断書を貰い、手帳を入手する事が目的であった。よくしゃべり、親切で気の付く楽しい人で、退院は同じ日であった。

②寺○公○さん、73歳、食道癌再発、運送業、島根県出身

7回目の食道癌の再発で入院の翌日に内視鏡手術。痛みが取れないらしく2日間うなされて、度々看護師を呼んでいたので睡眠不足になった。6人兄弟の末っ子で、中学を卒業して集団就職した事を、そしてその時の両親の事を切々と73歳の高齢者が私に訴えた。父は、高校ぐらいは行かせたいと言っていたが、母は就職して、送金してくれと言っていた。母に嫌われていたのではないかと60年前の事を昨日の事のように言い、また妻に尽くしても理解してもらえないと嘆く。入院中誰も見舞いには来なかった。こんな事なら治療を拒否して死ねば良かったと言う。73歳まで生きてこられた事に感謝しましょう、と言うしかなかった。我が人生を、吹っ切れない人に会ったのは初めてであった。

  クル○○ セル○○さん、61歳、右膝靭帯断裂、ロシア人、教師

忘年会で飲み過ぎた事で靭帯断裂し、その後ずっと入院しており、2月末に退院できそうと言っていた。身長193cm、体重130kgの巨漢でケッタッキーフライドチキンのオジサンに似ている。札幌には18年住んでいると言うが、日本語はまだきちんと理解出来ないようで、私との会話は辞書片手にちょくちょく開いていた。職業は北大理学部の助教授で毎日修士の学生が相談か報告に来ていた。会話は日本語でなく英語である。日本語が不自由な様だが支障ないかと尋ねると、札幌は英語で十分暮らせますと言う。奥さんのイリナさんは毎夕見舞いに来て夕食を見届けて帰宅していた。昔の日本の女性の様に甲斐甲斐しくて好感を持てた。私が彼にロシア語を教えてもらっており、彼女にスパシーバ、ハラショー、ミニャーザグァートウノキ、ドーブルイベーチェル、ダスビダーニャと言うと微笑んで、見舞いのたびに簡単な挨拶をしてくれるようになった。彼女は殆ど日本語は話せず、日本人とは英語でしかコミュニケーション出来ない女性であった。彼とは今でもメール交換している。そのうち会いたいものである。

 

2.序章、免疫について

1月24日朝日新聞朝刊を読まれた方もおられると思うが、免疫監視機構の一端がNK細胞を中心に説明されていたので、私なりにリライトして転記した。免疫療法については第12稿で報告したいと思う。庵主との約束の癌化学併用療法の問題点については現在まとめている段階なので第12稿か13稿で報告予定である。

免疫 健康に一役 免疫力を高めよう―。よく耳にする言葉である。ウイルスなどの病原体から守り、病気を防いでくれる体の仕組みが免疫であるが、その能力を高めることが本当に出来るか探ってみた。免疫は異物を攻撃するが「自然免疫」には個人差がある。免疫はストレスで低下し、特定の食べ物では上昇する。

順天堂大学、武田和由准教授「免疫力が高い・低いと言った言葉で表現されるものはNK活性という指標で説明できる」。それは白血球の一種であるリンパ球のうち「NK細胞が主役になる「自然免疫」という仕組みで、このNK細胞は、体の中の異物を「外敵!」と見分け、最初に攻撃を仕掛ける。早い攻撃の為に外敵を詳しく見分けている訳ではなく、未知の微生物やウイルスが相手でも即座に対応する能力を持つ。しかし、どの程度正しく反応できるかどうかに個人差がある。その能力の差を「NK細胞」という尺度で評価する。具体的にはNK細胞に特定の癌細胞を与え、4時間でそのうちの何%を殺すことが出来るのかを見ている。この値が高ければ「免疫がよく働いている」と考えられ、風邪などの一般的な病気にかかりにくくなる傾向がある。これは「免疫力が高い」と言われている状態に相当する。通常40%前後の値を示す人が最も多い。また、20歳前後に最も高くなり、その後は加齢と共に値が下がっていく。武田先生が注目するのは、同じ人でも日によって値が上下する点だ。「最もマイナスの影響が大きいのがストレス。試験に落ちた、異性に振られたといった出来事で値が大きく変動する。人によっては20ポイントも低下する事もある」という。食べ物でNK活性が上がったというデータもある。山形県と佐賀県の高齢者計142人が対象。特定の乳酸菌入りヨーグルトと牛乳を飲食するグループに分けて8~12週間にわたって調査。ヨーグルトを食べたグループはNK活性が上昇して風邪を引きにくくなったと言う。免疫細胞が最も多く集まる腸で、吸収されたヨーグルトの成分がNK細胞を活性化させたと説明出来ると言う。

不思議な事に、運動はNK活性を下げる方向に働くと言う。運動を始めた直後は一時的に値が上がるものの、終了後には元の値より低くなる傾向がある。特に激しい運動では落ち込みが大きく、NK活性の観点でみれば、体にとってマイナス。ただ、この現象はマウスの実験では起きず、メカニズムは良くわかっていない。武田先生は「免疫の仕組みが遺伝子レベルで次第に明らかになってきた。人が健康に暮らすためにはどうすればいいか、根拠に基づいた方法が分かる時代になってきた」と語っている。

私達の体を守る免疫

免疫は体の中に入った異物を攻撃して排除しようとする体の仕組みである。

             自然免疫           獲得免疫

反応の速さ       早い(最初に攻撃)      遅い 

未知の外敵       すぐに攻撃可能        最初は遅い(2回目から早い)

外敵の見極め      大まか            厳密(攻撃力が高い)

安定性         ストレス等に影響されやすい  安定

主に活躍する細胞    NK細胞等          T細胞、B細胞等

NK細胞が4時間で癌細胞を殺す能力を評価する。

5個中1個の癌細胞を殺す。・・・NK活性20%、弱い・低い

5個中2個の癌細胞を殺す。・・・NK活性40%、弱い・低い

5個中4個の癌細胞を殺す。・・・NK活性80%、強い・高い

 

3.薬価収載されている抗癌剤

新薬の出発物質は自然界から探し求めたものを各製薬企業が原薬に加工し、各社の実験系で薬効スクーリニングする出発原薬である。原薬は以下の7系統から原薬出発物質が作られている。

・化学的合成による原薬…原薬出発物質の製造、原薬出発物質の工程への導入

・動物由来の原薬…器官、液体又は組織の収集、細断、混合及び初期加工処理

・植物から抽出する原薬…植物の収集、細断及び初期抽出

・原薬と使用する生薬抽出物…植物の収集

・粉砕又は粉末化した生菌で構成する原薬…植物の収集又は栽培及び収集

・バイオテクノロジー(発酵・細胞培養)を応用した原薬

・クラシカル発酵を応用した原薬

1)薬価収載されている抗癌剤の情報検索について

抗癌剤は数が膨大過ぎるので、商品名と作用機序、適応を簡単に紹介する。従来、患者にとって抗癌剤の知識(情報)は主治医や薬剤師からに限定されており、患者として何故か聞きづらい環境にあったが、今日ではパソコンで関係施設、企業のホームページから多くの情報を入手でき、かつ医療関係者も積極的に情報開示する様になっている。関心のある抗癌剤の情報は医薬品医療機器総合機構のホームページ「医薬品医療機器情報提供ホームページ」http://www.info.pmda.go.jp/及び製薬企業のホームページで検索できるので活用頂ければ幸いである。蛇足ながら新たに承認された新薬情報は上記ホームページ内の「新薬の承認に関する情報」、厚労省から提供される安全性情報は「医薬品安全情報」から入手できるので覗いて頂きたい。全ての抗癌剤に第Ⅱ相試験にて…、第Ⅲ相試験にて…と商品名の最初に記したが、医薬品候補の物質即ち調製した原薬を製剤化し、企業が臨床試験の場に導入し、標準療法になるまで第Ⅰ相試験に始まり第Ⅳ相試験まで行う臨床試験の段階を言う。第Ⅱ相試験とは第Ⅰ相試験の用法・用量に従い治療効果を評価する段階であり、第Ⅲ相試験は有効性が確立された薬剤を従来の標準治療と比較検討する段階で、Ⅱ、Ⅲ終了の段階で国(厚労省)に医薬品にする為の申請はできる状況にあり、ここに紹介した抗癌剤は無事承認され医薬品として薬価収載されたものである。第Ⅳ相試験では、市販後調査、使用成績調査、特別調査、市販後臨床試験がおこなわれる。以下、簡略化して抗癌剤を紹介する。

2)薬価収載の抗癌剤~開発の経緯と薬剤情報~

1.「アルキル化剤」

マスタードガスという毒ガス兵器の研究の結果、開発された薬剤である。アルキル化剤はDNAを傷付け細胞分裂時にDNAを破壊し、癌細胞を死に至らしめる。作用機序的には、構成塩基へのアルキル化反応が起こり、橋状結合を形成し鎖間クロスリンクスを生じ、その結果としてDNAの合成を阻害する抗癌剤である。

1)アルキル化剤:マスタード薬

1)エンドキサン…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤として確立している。DNA,RNAのクロスリンク(合成阻害、細胞周期非特異的)、肝で活性体に変換され、主に腎で排泄される。適応は自覚的並びに他覚的症状の緩解(多発性骨髄腫、悪性リンパ腫、乳癌、急性白血病、肺癌、神経腫瘍、骨腫瘍)、他の抗癌剤と併用(慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、咽頭癌、胃癌、膵癌、肝癌、結腸癌、子宮頸癌、卵巣癌、精巣腫瘍、絨毛癌、横紋筋肉腫、悪性黒色腫)である。

2)イホマイド…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤として確立している。CPAの類縁化合物(アナログ)、DNAクロスリンク(DNA合成阻害、細胞周期非特異的)、肝で活性体に変換され、主に腎で排泄される。適応は自覚的並びに他覚的症状の緩解(肺小細胞癌、前立腺癌、子宮頸癌、骨肉腫、再発又は難治性の胚細胞腫瘍(精巣腫瘍、卵巣腫瘍、性腺外腫瘍)、他の抗悪性腫瘍剤との併用療法(悪性骨・軟部腫瘍、小児悪性固形腫瘍である。

3)アルケラン…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤として確立している。DNAクロスリンク、細胞周期非特異的で主に腎で排泄される。適応は(錠)多発性骨髄腫、(注)白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、小児固形腫瘍における造血幹細胞移植時の前処理である。

4)(散)マブリン、(注)ブスルフェクス…第Ⅱ相試験で有効性が示されている。DNAクロスリンク形成、細胞周期非特異的で主に腎で排泄される。適応は(散)慢性骨髄性白血病、真性多血症、(注)同種造血幹細胞移植の前治療、Ewing肉腫ファミリー腫瘍、神経芽細胞腫における自家造血幹細胞移植の前治療である。

2)アルキル化剤:ニトロソウレア類系

1)ニドラン…第Ⅱ相試験で有効性が示されており、わが国で開発された薬剤である。DNA鎖間の架橋形成、主に腎で排泄される。適応は脳腫瘍、胃癌、肝癌、結腸・直腸癌、肺癌、悪性リンパ腫、慢性白血病である。

2)サイメリン…第Ⅱ相試験で有効性が示されている。DNAクロスリンク、主に腎で排泄される。適応は膠芽腫、骨髄腫、悪性リンパ腫、慢性骨髄性白血病、真性多血症、本態性血小板増多症である。

3)アルキル化剤:トリアゼンおよびヒドラジン類系

1)ダカルバジン…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤として確立している。カルボ二ウムイオン、DNA合成阻害、細胞周期非特異的で、主に腎で排泄される。適応は悪性黒色腫、Hodgkinリンパ腫である。

2)プロカルバジン…第Ⅱ相試験で有効性が示されている。活性化代謝物がフリーラジカルを産生、DNAをアルキル化、メチル化、S期特異的で、主に腎で排泄される。

適応は悪性リンパ腫、他の抗悪性腫瘍剤との併用療法(悪性星細胞腫、乏突起膠腫成分を有する神経膠腫)である。

3)テモダール…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤として確立している。生理的pHで非酵素的に速やかに活性体のMTIC5-[3-methyl-triazen-1-yl]imidazole-4-carboxamide)に変換される。主に腎で排泄される。適応は悪性神経膠腫である。

3)      アルキル化剤:白金製剤系

DNA鎖内または鎖間結合或いはDNA蛋白結合を作ってDNA合成を阻害する。

1ブリプラチン、ランダ、シスプラチンマルコ…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤として確立している。DNAクロスリンク、細胞周期非特異的(殺細胞効果は濃度および時間依存性)、主に腎で排泄される。効能は通常療法(精巣腫瘍、膀胱癌、腎盂・尿管腫瘍、前立腺癌、卵巣癌、頭頸部癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、食道癌、子宮頸癌、神経芽細胞腫、胃癌、国肉腫、胚細胞腫瘍)、他の抗悪性腫瘍剤との併用療法(悪性骨腫瘍、子宮体癌、再発・難治性悪性リンパ腫、小児悪性固形腫瘍、尿路上皮癌)、動注用(肝細胞癌に対する肝動脈内投与)である。

2)パラプラチン…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤として確立している。CDDPのアナログ、DNAクロスリンク、細胞周期非特異的、主に腎で排泄される。効能は頭頸部癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、精巣腫瘍、卵巣癌、子宮頸癌、悪性リンパ腫、他の抗悪性腫瘍剤との併用療法(小児悪性固形腫瘍)である。

3)アクプラ…第Ⅱ相試験で有効性が示されており、わが国で開発された薬剤である。CDDPのアナログ、DNAクロスリンク、細胞周期非特異的。主に腎で排泄される。効能は頭頸部癌、肺癌、食道癌、膀胱癌、精巣腫瘍、卵巣癌、子宮頸癌である。

4)エルプラット…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤として確立しており、わが国で開発された薬剤である。DNA鎖内および鎖間の両者に白金‐DNA架橋を形成、DNAの複製および転写阻害。主に腎で排泄される。適応は治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌(FOLFOX)、結腸癌術後化学療法である。

5)ミリプラチン…第Ⅱ相試験で有効性が示されている。わが国で開発された薬剤である。脂溶性白金錯体で、油性造影剤に懸濁し使用。油性造影剤を担体として用いる事で、腫瘍部位に選択的に滞留し、長時間徐放性に活性体を放出させる。適応は肝臓癌である。

2.「代謝拮抗薬」

増殖の盛んな癌細胞に多く含まれる酵素を利用して分裂を抑え込む薬剤である。プロドラッグであり、本来の働きをする前の化学構造を持つ薬剤として投与される。つまりDNAのヌクレオチド形成から核酸合成に至る過程で拮抗的に働く物質が代謝拮抗薬と呼ばれている。

1)代謝拮抗薬:葉酸系

1)メソトレキセート…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤として確立している。葉酸代謝拮抗剤、DHFRに結合、DNA合成阻害、S期特異的、主に腎で排泄される。適応はMTXLV救援療法(肉腫、急性白血病、、悪性リンパ腫)、(錠)自覚的並びに他覚的症状の緩解(急性白血病、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、絨毛性疾患)、MTX通常療法(急性白血病、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、絨毛性疾患)、CMF療法(尿路上皮癌)、MTXFU交代療法(胃癌)である。

2)アリムタ…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤として確立している。DNA合成と葉酸代謝に関わるTSDHFRGARFTAICARFTの酵素を阻害することによってプリントチミジンヌクレオチドを抑制し、蛋白合成を阻害する。主に腎で排泄される。適応は悪性胸膜中皮腫、切除不能な進行・非小細胞肺癌である。

2)      代謝拮抗薬:ピリミジン系

15-FU…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤として確立している。ピリミジン拮抗剤、活性体FdUMPがチミジル酸合成酵素を阻害、DNA合成阻害、S期特異的。主に腎で排泄される。適応は(軟膏)皮膚悪性腫瘍、(錠)消化器癌:・結腸・直腸、乳癌、子宮頸癌、子宮体癌、卵巣癌、他の抗悪性腫瘍剤又は放射線と併用(食道癌、肺癌、頭頸部腫瘍)、I-LV/FU持続靜注併用療法(結腸・直腸癌)である。

2ユーエフティ…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤として確立している。わが国で開発された薬剤である。uracil tegafurの合剤、uracilによる tegafurの抗腫瘍効果増強を狙っている。適応は頭頸部癌、胃癌、結腸・直腸癌、肝癌、胆嚢・胆管癌、膵癌、肺癌、乳癌、膀胱癌、前立腺癌、子宮頸癌である。

3)フルツロン…有効性を示すデータに乏しく、臨床的にあまり使用されていない。わが国で開発された薬剤である。5-FUの前駆体、適応は胃癌、結腸・直腸癌、乳癌、子宮頸癌、頭頸部癌、膀胱癌である。

4ティーエスワン…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤として確立しており、わが国で開発された薬剤である。tegafur,gimeracil,oteracil,の合剤、gimeracil,はジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ(DPD)の阻害剤であり、5-FUの抗腫瘍効果の増強とoteracil,による5-FUの消化器毒性の軽減を狙っている。肝代謝、胆汁排泄される。適応は胃癌、結腸・直腸癌、頭頸部癌、非小細胞癌、手術不能又は再発乳癌、膵癌、胆嚢癌である。

5ゼロ―ダ…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤として確立しており、わが国で開発された薬剤である。肝臓でカルボキシルエステラーゼおよびシチジンデアミナーゼにより5-DFURに変換され、消化器毒性の軽減と5-FUの抗腫瘍効果の増強を狙っている。主に肝代謝・腎排泄される。適応は手術不能又は再発乳癌、結腸癌(術後化学療法)、治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌、治癒切除不能な胃癌である。

6)キロサイド、(カプセル)スタラシド…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤として確立している。ピリミジン拮抗剤、活性化されたcitarabine triphosphate、DNAポリメラーゼに作用、DNA合成阻害、S期特異的、主に肝代謝・腎排泄される。適応は急性白血病、大量療法(再発又は難治性)急性白血病、悪性リンパ腫、他の抗癌剤と併用:消化器癌(胃、胆嚢・胆道、膵、肝、結腸・直腸等)、膵癌、乳癌、女性性器癌、膀胱腫瘍他、(錠):成人急性非リンパ性白血病、骨髄異形成症候群である。

7)サンラビン…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤として確立しており、わが国で開発された薬剤である。Ara-Cのプロドラッグで、適応は急性白血病である。

8)ジェムザール…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤として確立している。Ara-Cの誘導体。癌細胞内で三リン酸化物(dFdCTP)に代謝され、デオキシシチジン三リン酸(dCTP)と競合してDNA鎖に取り込まれ、DNA合成を阻害。主に腎で排泄される。適応は非小細胞癌、膵癌、胆道癌、尿路上皮癌、手術不能又は再発乳癌である。

9)アラノンジー…第Ⅱ相試験で有効性が示されている。アデノシンデアミナーゼにより脱メチル化されてT-細胞に高い選択性のある代謝活性剤であるara-Gとなり、細胞内でリン酸化を受けて活性型のara-GTPとなる。白血病芽球内にara-GTPが蓄積すると、DNAにara-GTPが優先的に取り込まれDNA合成が阻害される。主に腎で排泄される。適応は再発又は難治性のT細胞急性リンパ性白血病、T細胞リンパ芽球性リンパ腫である。

3)      代謝拮抗薬:プリン系他

1)ロイケリン…第Ⅱ相試験で有効性が示されている。プリン拮抗剤、DNA合成阻害、S期特異的。適応は急性白血病、慢性骨髄性白血病である。

2)フルダラ…第Ⅱ相試験で有効性が示されている。DNA阻害。主に腎で排泄される。適応は(注射剤)貧血又は血小板減少症を伴う慢性リンパ性白血病、造血幹細胞移植の前治療、(経口剤)再発又は難治性の低悪性度B細胞性非Hodgkinリンパ腫およびマントル細胞リンパ腫である。

3)コホリン…有効性を示すデータに乏しく、臨床的にあまり使用されていない。アデノシンデアミナーゼ(ADA)阻害による抗腫瘍作用。主に腎で排泄される。適応は成人T細胞白血病、ヘアリーセル白血病である。

4)ロイスタチン…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤として確立している。cladribin2-CdAMPさらに2-CdATPまで変換され、リンパ球や単球に対して選択的に殺細胞効果を発揮する。主に腎で排泄される。適応はヘアリーセル白血病、低悪性度又は濾胞性非Hodgkinリンパ腫、マントル細胞リンパ腫である。

4)      代謝拮抗薬:その他

1)ハイドレア…第Ⅱ相試験で有効性が示されている。リボヌクレオチド還元酵素阻害、DNA合成阻害、S期特異的。主に腎で排泄される。適応は慢性骨髄性白血病である。

3.「抗腫瘍性抗生物質」

 抗腫瘍性抗生物質は、抗癌性抗生物質と同義語である。微生物からつくられたもので、一般的な抗生物質が細菌を死滅させるのと同様に、癌細胞を死滅させる抗生物質である。つまりカビの一種を培養して得られる抗菌化合物のグループで、アルキル化剤と並んで癌化学療法のkey drugであり、核酸の機能、合成に障害をもたらす薬剤である。

1)      抗腫瘍性抗生物質:アントラサイクリン系

1)アドリアシン…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤として確立している。DNAインターカレーション、トポイソメラーゼ阻害。主に肝代謝、胆汁排泄(腎排泄45%)される。適応は悪性リンパ腫、肺癌、胃・胆嚢胆管・膵・肝・結腸・直腸等の消化器癌、乳癌、膀胱腫瘍、骨肉腫、他の抗悪性腫瘍剤との併用療法(乳癌、子宮体癌、悪性骨・軟部腫瘍、悪性骨腫瘍、多発性骨髄腫、小児悪性固形腫瘍、である。

2)ファルモルビシン…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤として確立している。ADRのアナログDNAインターカレーション、S期特異的。主に肝代謝・腎排泄(10%)される。適応は急性白血病、悪性リンパ腫、乳癌、卵巣癌、胃癌、肝癌、膀胱癌、腎盂・尿管腫瘍、他の抗悪性腫瘍剤との併用療法:乳癌(手術可能例における術前、或いは術後化学療法)である。

3)ダウノマイシン…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤として確立している。DNAインターカレ-ション、細胞周期非特異的。適応は急性白血病である。

4)イダマイシン…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤として確立している。DNAインターカレ-ション、トポイソメラーゼⅡ阻害。適応は急性骨髄性白血病。

5)テラルビシン、ピノルビン…有効性を示すデータに乏しく、臨床的にあまり使用されていない。ADRのアナログDNAインターカレ-ション、G2期特異的。適応は頭頸部癌、乳癌、胃癌、膀胱癌、腎盂・尿管腫瘍、卵巣癌、子宮癌、急性白血病、悪性リンパ腫である。

6)ノバントロン…第Ⅱ相試験で有効性が示されている。DNAインターカレ-ション、細胞周期非特異的。主に肝代謝・胆汁排泄される。適応は急性白血病、悪性リンパ腫、乳癌、肝癌である。

7)カルセド…第Ⅱ相試験で有効性が示されている。DNAインターカレーション、トポイソメラーゼⅡ阻害。主に肝代謝・胆汁排泄でされる。適応は小細胞肺癌、非小細胞肺癌である。

(8)ドキシル…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤として確立している。リポソーム化したドキソルビシンを選択的に搬送(DDS)することによって、副作用を抑えて治療効果を高める事を期待。適応はエイズ関連Kposi肉腫、卵巣癌、(癌化学療法後に増悪した卵巣癌である。

2)      抗腫瘍性抗生物質:その他

1)コスメゲン…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤として確立している。DNAインターカレ-ション、細胞周期非特異的。適応はWilms腫瘍、絨毛上皮腫、破壊性胞状奇胎、他の抗悪性腫瘍剤との併用療法:小児悪性固形腫瘍である。

2)ブレオ…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤として確立している。DNA合成の阻害およびDNA鎖切断、G2期特異的。主に腎で排泄される。適応は皮膚癌、頭頸部癌、肺癌(特に扁平上皮)、食道癌、子宮頸癌、悪性リンパ腫、神経膠腫、甲状腺癌、胚細胞腫瘍(精巣腫瘍、卵巣腫瘍、性腺外腫瘍)である。

3)ぺプレオ…有用性のデータに乏しく、臨床的にあまり使用されていない薬剤である。DNA合成阻害およびDNA鎖切断、G2期特異的。主に腎で排泄される。適応は皮膚癌、頭頸部癌、肺癌(特に扁平上皮)、前立腺癌、悪性リンパ腫である。

4)マイトマイシン…第Ⅱ相試験で有効性が示されており、わが国で開発された薬剤である。アルキル化剤として作用、DNA合成複製阻害、細胞周期非特異的。主に腎で排泄される。適応は慢性リンパ性白血病、胃癌、肝癌、結腸・直腸癌、肺癌、子宮頸癌、子宮体癌、乳癌、頭頸部癌、膵癌、膀胱癌である。

5)アクラシノン…有用性のデータに乏しく、臨床的にあまり使用されていないが、わが国で開発された薬剤ある。DNA合成阻害。適応は胃癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、悪性リンパ腫、急性白血病である。

6)スマンクス…有用性のデータに乏しく、臨床的にあまり使用されていないが、わが国で開発された薬剤ある。DNAインターカレ-ション。適応は肝細胞癌である。

4.「抗腫瘍性抗生物質」

 私は、抗腫瘍性抗生物質と言うより植物アルカロイドの方が経験的にはイメージしやすい。天然に存在する植物を原料として作られた薬剤で、細胞分裂時に機能する微小管の働きを阻害し、癌細胞を死滅させる。しかし微小管は神経細胞でも重要な働きをするため、手足のしびれなどの神経障害がおこる事がある。

1)      微小管阻害剤:ビンカアルカロイド系

1)オンコビン…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤として確立している。チュブリン重合阻害、細胞分裂阻害、M期特異性。主に肝代謝・胆汁排泄される。適応は白血病、悪性リンパ腫、小児腫瘍(神経芽腫、Wilms腫瘍、横紋筋肉腫、抗癌胎児性癌、血管肉腫等)、他の抗悪性腫瘍剤との併用療法:多発性骨髄腫、悪性星細胞腫、乏突起膠腫成分を有する神経膠腫である。

2)フィルデシン…第Ⅱ相試験で有効性が示されている。VLDのアナログ。主に肝代謝・胆汁排泄される。適応は急性白血病、悪性リンパ腫、肺癌、食道癌である。

3)エクザール…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤として確立している。チュブリン重合阻害、M期、S期特異性。主に肝代謝・胆汁排泄される。適応は硫酸ビンブラスチン通常療法:悪性リンパ腫、絨毛性疾患、再発又は難治性の胚細胞腫瘍、M-VAC療法:尿路上皮癌である。

4)ナベルビン…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤として確立している。vinca alkaloid誘導体。主に肝代謝・胆汁排泄される。適応は非小細胞肺癌、手術不能又は再発乳癌である。

2)      微小管阻害剤:タキサン系

1)タキソール…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤として確立している。チュブリン重合促進・脱重合阻害による安定化で細胞分裂をM期で停止させる。主に肝代謝・胆汁排泄される。適応は卵巣癌、乳癌、非小細胞肺癌、胃癌、子宮体癌、頭頸部癌である。

2タキソテール…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤として確立している。チュブリン重合促進・脱重合阻害による安定化で細胞分裂をM期で停止させる。主に肝代謝・胆汁排泄される。適応は乳癌、非小細胞肺癌、胃癌、頭頸部癌、卵巣癌、食道癌、子宮体癌、ホルモン不応性前立腺癌である。

3)アブラキシン…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤として確立している。パクリタキセルのドラッグ・デリバリー・システム(DDS)製剤、パクリタキセルをアルブミン結合する事により溶解性が向上し、パクリタキセルを溶解するクレモホールを必要としないナノ粒子化した懸濁製剤。主に肝代謝・胆汁排泄される。適応は転移性乳癌である。

3)      微小管阻害剤:エポチロン系

1)イクセンプラ…第Ⅱ相試験で有効性が示されている。チュブリン重合促進作用を有するエポチロンB誘導体。微小管を安定化し、細胞周期をG2/M期に固定する事で効果を発揮する。パクリタキセルがαβⅡ‐微小管のみに作用するのに対し、イキサベピロンはαβⅡ‐微小管とαβⅢ‐微小管に作用する。肝代謝・腎、胆汁排泄が主な経路である。適応は転移性乳癌(アントラサイクリン系薬剤、タキサン系薬剤に抵抗性)である。

4)トポイソメラーゼ阻害剤

1カンプト、トポテシン…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤として確立しており、わが国で開発された薬剤である。トポイソメラーゼⅠ阻害、DNA合成阻害。主に肝代謝・腎、胆汁排泄される。適応は小細胞肺癌、非小細胞肺癌、子宮頸癌、卵巣癌、胃癌(手術不能又は再発)、結腸・直腸癌(手術不能又は再発)、乳癌(手術不能又は再発)、有棘細胞癌、悪性リンパ腫(非ホジキンリンパ腫)小児悪性固形腫瘍、治療切除不能な膵癌である。

2)ハイカムチン…第Ⅱ相試験で有効性が示されている。トポイソメラーゼⅠ阻害、DNA合成阻害。主に腎で排泄される。適応は小細胞肺癌である。

3)ペプシド、ラステット…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤として確立している。トポイソメラーゼⅡ阻害、DNA合成阻害、G2S期。主に腎で排泄される。適応は肺小細胞癌、悪性リンパ腫、急性白血病、精巣腫瘍、膀胱癌、絨毛癌、胚細胞腫瘍(精巣腫瘍、卵巣腫瘍、性腺外腫瘍)、子宮頸癌(カプセルのみ)、他の抗悪性腫瘍剤との併用療法:小児悪性固形腫瘍、肺小細胞癌、悪性リンパ腫、子宮頸癌である。

5.「ホルモン療法剤」

 ホルモン療法剤は癌細胞の増殖を促進させる性ホルモンの働きを抑制することによって癌病巣を縮小させる働きを有している。直接ホルモンレセプターに作用するか、あるいは視床下部や下垂体への作用を介して間接的に効果を発揮する薬剤である。

1)      ホルモン療法剤:ステロイド

1)プレドニゾロン、プレドニン…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤として確立している。免疫抑制効果、抗炎症作用など。主に肝代謝・腎排泄される。適応は悪性リンパ腫及び類似疾患、用法:静脈内注射、点滴静脈内注射、筋肉内注射、脊髄腔内注入。抗酸性肉芽腫 用法:静脈内注射、点滴静脈内注射、筋肉内注射。乳癌の再発転移 用法:筋肉内注射である。

2)デカドロン、オルガドロン、デキサメサゾン…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤として確立している。免疫養成効果、抗炎症作用等。主に肝代謝・腎排泄される。適応は悪性リンパ腫及び類似疾患 用法:静脈内、点滴静脈内、筋肉内、脊髄腔内。抗酸性肉芽腫 用法:静脈内、点滴静脈内、筋肉内。乳癌の再発転移 用法:筋肉内。他の抗悪性腫瘍剤との併用療法:多発性骨髄腫 用法:点滴静脈内。抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)投与に伴う消化器症状(悪心・嘔吐) 用途:静脈内、点滴静脈内である。

2)ホルモン療法剤:抗エストロゲン薬

1)ノルバデックス…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤として確立している。腫瘍細胞のエストロゲンレセプターと結合、estradiol作用に拮抗。主に肝代謝・胆汁排泄される。適応は乳癌である。

2)フェアストン…第Ⅱ相試験で有効性が示されている。TAMのアナログ。主に肝代謝・胆汁排泄される。適応は閉経後乳癌である。

3)ホルモン療法剤:プロゲステロン

1)ヒスロンH、プロベラ…第Ⅱ相試験で有効性が示されている。プロゲステロン製剤、下垂体からのGnRHの抑制。主に腎で排泄される。適応は子宮体癌、乳癌である。

4)ホルモン療法剤:アロマターゼ阻害薬

1)アリミデックス…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤として確立している。強力・選択的な可逆的非ステロイド性アロマターゼ阻害剤、アンドロゲンからのエストロゲン生成阻害。主に肝代謝・腎排泄される。適応は閉経後乳癌である。

2)アロマジン…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤として確立している。非可逆的アロマターゼ阻害薬、アンドロゲンからのエストロゲン生成阻害、ステロイド骨格を有する。主に肝代謝・腎排泄される。適応は閉経後乳癌である。

3)フェマーラ…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤として確立している。競合的アロマターゼ阻害剤、アンドロゲンからのエストロゲン生成阻害。適応はホルモンレセプター陽性又は不明の閉経後乳癌、5年間のタモキシフェンによる術後補助療法の延長追加である。

5)ホルモン療法剤:LH-RHアゴニスト

1)ゾラデックス…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤として確立している。LH-RH agonist、下垂体からのGnRHの抑制。適応は前立腺癌、

閉経前乳癌(3カ月製剤は前立腺癌のみ)である。

2)リュープリン…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤として確立している。LH-RH agonist、下垂体からのGnRHの抑制。主に肝代謝・胆汁排泄される。適応は前立腺癌、閉経前乳癌(3カ月製剤は前立腺癌のみ)である。

6)ホルモン療法剤:抗アンドロゲン薬

1)オダイン…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤として確立している。非ステロイド性アンドロゲン薬。主に腎で排泄される。適応は前立腺癌である。

2)カソデックス…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤として確立している。非ステロイド性アンドロゲン薬。主に肝代謝・胆汁排泄される。適応は前立腺癌である。

 

7)ホルモン療法剤:エストロゲン薬

1)エストラサイト…第Ⅱ相試験で有効性が示されている。合成エストロゲン(estradiol nitrogen mustard)適応は前立腺癌である。

6.「Biological response modifiers(BRM)

 生体の免疫防御機構の増強をはかり、腫瘍に対し直接的、間接的に抑制効果を狙った薬剤である。種々のサイトカイン、モノクローナル抗体など様々なものがあるが、インターフェロンを除いて多くは未だ研究段階である。

1)イントロン、スミフェロン、IFN-α、オーアイエフ、アドバフェロン…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤として確立している。細胞増殖抑制作用。免疫系を介した作用。適応は腎癌、多発性骨髄腫、慢性骨髄性白血病である。

2)フェロン、IFN-β…有用性のデータに乏しく、臨床的にあまり使用されていない。細胞増殖抑制作用。免疫系を介した作用。適応は悪性黒色腫、膠芽腫、星細胞腫、髄芽腫である。

3)オーガンマ…有用性のデータに乏しく、臨床的にあまり使用されていない。細胞増殖抑制作用。免疫系を介した作用。適応は菌状息肉症(内臓浸潤期を除く)、成人T細胞白血病(皮膚に病変が限局するもの)である。

4)ピシバニール…有用性のデータに乏しく、臨床的にあまり使用されていない。好中球、マクロファージ、NK細胞の活性化、免疫増強。適応は胃癌、頭頸部癌、甲状腺癌である。

7.「分子標的治療薬」

 従来型の抗癌剤の欠点を克服すべく、癌細胞が持っているある特定の分子に働く分子標的治療薬剤として開発された。以下の18品目は2001年~2010年に承認されたものであるが、しかし、間質性肺炎や心不全など、これまでの抗癌剤では問題にならなかったような予想外の重篤な副作用が発現しているので、これらの副作用情報には注意する必要がある。

1ハーセプチン…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤として確立している。HER2蛋白に対する抗体依存性細胞障害作用。HER2分子数低下による細胞増殖抑制。適応はHER2過剰発現が確認された転移性乳癌、過剰発現が確認された乳癌における術後化学療法である。

2)リツキサン…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤として確立している。CD20抗原に対する補  体依存性および抗体依存性細胞障害作用。適応はCD20陽性のB細胞性非Hodgkinリンパ腫である。

3)ゼグァリンイットリウム…Ⅲ相試験にて標準的薬剤として確立している。ヒト抗CD20抗体に対するマウス型IgG1κ鎖モノクロナール抗体であるイブリツモマブと塩基イットリウムが反応した錯体がCD20抗原陽性細胞へ集積し、90Yから放出されるβ線により細胞障害性を示す。CD20抗原は正常細胞にも発現が認められることから、イブリツモマブの血中半減期延長を目的として抗CD20抗体であるリツキシマブの直前投与が行われる。適応はCD20陽性の再発または難治性の低悪性度B細胞性非Hodgkinリンパ腫、マントル細胞リンパ腫である。

4)グリベック…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤Ⅲとして確立している。Bcr-Abl,v-Abl,c-Abl,PDGF,c-Kitチロシンキナーゼ活性を阻害。主に肝代謝・胆汁代謝される。適応は慢性骨髄性白血病、KIT(CD117)陽性消化管間質腫瘍、フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病である。

5)スプリセル…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤として確立している。Bcr-Abl, SRC, c-Kit, EPHA2, PDGFRキナーゼ活性を阻害。主に肝代謝・胆汁排泄される。適応はイマチニブ抵抗性の慢性骨髄性白血病、再発又は難治性のフィラデルフィア染色体陽性急性白血病である。

6)タシグナ…第Ⅱ相試験で有効性が示されている。Bcr-Abl,蛋白のチロシンキナーゼ活性を阻害、変異BCR-ABL遺伝子の産生蛋白のチロシンキナーゼ活性をも阻害可能。主に肝代謝・胆汁排泄される。適応はイマチニブ抵抗性の慢性骨髄性白血病(慢性期又は移行期)である。

7)イレッサ…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤Ⅲとして確立している。EGFRチロシンキナーゼを選択的に阻害。主に肝代謝・胆汁排泄される。適応は手術不能または再発非小細胞肺癌である。

8)マイロターゲ…第Ⅱ相試験で有効性が示されている。ヒト化抗CD33抗体hP67.6と抗腫瘍性抗生物質のカリケアマイシンの誘導体を結合した薬剤。主に腎で排泄される。適応は再発又は難治性のCD33陽性の急性骨髄性白血病である。

9)ベルケード…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤Ⅲとして確立している。プロテアソーム阻害、サイトカイン(IL6など)の分泌抑制。主に肝で排泄される。適応は再発又は難治性の多発性骨髄腫である。

10)タルセバ…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤Ⅲとして確立している。EGFRチロシンキナーゼを選択的に阻害。主に肝代謝・胆汁排泄される。適応は切除不能な再発・進行性で、癌化学療法施行後に増悪した非小細胞肺癌、膵癌である。

11アービタックス…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤Ⅲとして確立している。EGFRに対す るキメラ型モノクロナール抗体。適応はEGFR陽性の治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌、頭頸部癌である。

12アバスチン…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤Ⅲとして確立している。VEGFに対するヒト化モノクロナール抗体。適応は転移性大腸癌(靜注5FUとの併用)、扁平上皮癌を除く切除不能な進行・再発非小細胞肺癌、転移性乳癌である。

13)スーテント…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤Ⅲとして確立している。VEGFR,DGFR, KIT,RETFlt3チロシンキナーゼ活性を阻害。主に肝代謝・胆汁排泄される。適応はイマチニブ抵抗性の消化管間質腫瘍(GIST)、根治切除不能又は転移性の腎細胞癌である。

14)ネクサバール…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤Ⅲとして確立している。Raf, VEGFR,DGFR, KIT,RETFlt3チロシンキナーゼ活性を阻害。主に肝代謝・胆汁排泄される。適応は根治切除不能又は転移性の腎細胞癌、切除不能な肝細胞癌である。

15)タイケルブ…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤Ⅲとして確立している。HERI, HER2のチロシンキナーゼ活性を可逆的に阻害。適応はHER2過剰発現が確認された手術不能又は再発乳癌(カぺシタビンと併用9である。

16)トリセル…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤Ⅲとして確立している。mTOR阻害。主に肝代謝・胆汁排泄される。適応は進行腎細胞癌である。

17ベクティベックス…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤Ⅲとして確立している。EGFRに対する完全ヒト化モノクロナール抗体。適応はEGFR発現(+)かつ5FU、オキサリプラチン、イリノテカン治療後の転移性大腸がんである。

18)アフィニトール…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤Ⅲとして確立している。mTOR阻害。適応は根治切除不能又は転移性の腎細胞癌である。

8.「その他」

1)ロイナーゼ…第Ⅱ相試験で有効性が示されている。アスパラギンの水酸化、アスパラギンの欠乏、蛋白、DNARNA合成阻害、G1期特異的。適応は急性白血病、悪性リンパ腫である。

2)ベサノイド…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤Ⅲとして確立している。ビタミンA活性化代謝物、白血病細胞の分化誘導。主に肝代謝・胆汁排泄される。適応は急性前骨髄性白血病である。

3)トリセノックス…第Ⅱ相試験で有効性が示されている。明らかでないが、DNA断裂やPML-RARαに対する阻害が考えられている。適応は再発又は難治性の急性前骨髄球性白血病(APL)である。

4)サレド…第Ⅲ相試験にて標準的薬剤Ⅲとして確立している。VEGF等を介した血管新生阻害、サイトカイン(TNF-α、IL-6等)産生抑制、免疫調節作用、アポトーシス誘導等。適応は再発又は難治性の多発性骨髄腫である。

以上の如く抗癌剤は大まかには8分野に分かれ、上記には専ら先発品(新薬)を商品名で列記したが、一般名も併記した方が良かったかなと反省している。特許が切れた薬剤の後発品は倍以上収載されているので、次回は上記品目を中心にして薬価の仕組みや抗癌剤の併用の考え方および問題点について私なりの感想を述べたい。今回は少々疲れました。

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