36.最終稿「癌と共に~再発癌の宿命~」 未定稿を20151225日受領

1.   サイラムザ(CYRAMUZA)1,2クール点滴投与成績及び血液検査成績

2.   サイラムザ治療にあたっての留意点

3.自宅でのケア諸々

 

1.サイラムザ(CYRAMZA12クール点滴投与成績及び血液検査成績

1)サイラムザ1、2クール目の点滴投与(9/28,10/19)、治療経過

928日、気温9℃曇り空、7時半にわが家を出発。北大病院に着いて、家内が「あっ、採血は10時、診断は11時の予約だったわ、どうしよう」という。ひたすら消化器内科外来待合で2時間待つしかなかった。11時過ぎに澤田医師、富樫看護師が「小松医師が尿検査をオーダーするのを忘れたようですので、申し訳ありませんが採血室に出向いて尿検査を再度受けて下さい」という。外来治療センターで待つ事1時間、13時に川本医師の診断を受け13時半より、サイラムザの治療を開始する事になった。

血液検査における異常値(L:低値・H:高値)を9/14,9/28,10/193回分を列記すると☆10/19白血球数9.6H(←9/14 4.0μ/:ZELOX療法3投目終了時の血液検査時と, 9/28 6.8μ/:SYRAMZA単独療法2投目)、☆10/19赤血球数3.45L(9/14 3.099/28 3.07)、☆10/19ヘモグロビン10.2L(9/14 9.39/28 9.3),10/19 ヘマトクリット32.1L(9/14 28.1, 9/28 28.1),10/19血清総蛋白6.2L(9/14 5.6, 9/28 5.9),10/19 S-アルブミン3.2L(9/14 3.1, 9/28 3.0),10/19 A/G1.07L(9/14 1.24, 9/28 1.03),10/19 C-E 164L(9/14 181, 9/28 170),10/19尿素窒素38H(9/14 24 ,9/28 25),10/19CEA 9.6H(9/14 6.4, 9/28 6.7),10/19CA19-9 2488.8H(9/14 1803.0, 9/28 1892.0)であった。

2015.9.14.10.19の血液検査及び主治医の外来診断、全身状態を考えると、期待した☆第4療法ZELOX療法(エルプラット+XELODA併用療法3投目の腫瘍マーカーの異常な高値を考えると継続治療は難しいと考え、主治医と相談の上で、★分子標的治療薬サイラムザ(SYRAMZA)単独療法の第6療法に切り替えることになった。

これまでの私の治療の推移については、先ず、①延命治療の為のティーエスワン8クールの単独療法、②SP再発胃癌標準療法(ティエスワン+シスプラチン)、③パクリタキセル単独療法、④カンプト注単独療法、⑤ZELOX療法(エルプラット+XELODA併用療法)、⑥★サイラムザ単独療法2投目(10/19)と現在に至っている。

サイラムザ以外の従来型の抗癌剤の治療目的は、アルキル化剤であるシスプラチン、オキサリプラチンは、DNAがその標的であり、その構成塩基(特にグアニンの7位の窒素)へのアルキル化反応が起こり、橋上結合を形成し鎖間クロスリンクを生じ、その結果DNAの合成を阻害するものである。

シスプラチン(CDDP)はDNA鎖内または鎖間結合あるいはDNAたんぱく結合を作ってDNA合成を阻害するものであった。胃癌再発時の☆第1治療法として用いたSP療法のシスプラチン(uraciltegafurの合剤、uracilによるtegafurの抗腫瘍効果増強を目標とした合剤代謝拮抗薬ティーエスワン併用)の作用機作は、DNAクロスリンク、細胞周期非特異的(殺細胞効果は濃度および時間依存性)なものであった。主な代謝経路は腎排泄である。

☆第3治療法単独療法の抗腫瘍性抗生物質パクリタキセル(タキソール:paclitaxel)は天然に存在する植物を原料として作られた抗癌剤である。作用機作は、チュブリン重合促進・脱重合阻害による安定化で細胞分裂をM期で停止させるもので、主な排泄経路は肝代謝・胆汁排泄で、骨髄抑制嘔気、脱毛、他にアレルギー反応、末梢神経障害、心障害等の副作用も報告されている。

☆第4治療法のトポイソメラーゼ阻害薬カンプト注(天然に存在する植物原料)単独療法の作用機作はトポイソメラーゼⅠ阻害によるDNA合成阻害である。

第5療法のXELOX治療法(エルプラット+XELODA併用)のエルプラット(オキサリプラチン;L-OHP)は、DNA鎖内及び鎖間の両者に白金-DNA架橋を形成し、DNAの複写及び転写阻害するものであった。主な代謝経路は腎排泄である。併用の代謝拮抗薬ゼローダcapecitabineの作用機作は、肝臓でカルボキシルエステラーゼおよびシチジンデアミナーゼにより5‐DFURに変換され、消化器毒性の軽減と5‐FUの抗腫瘍効果の増強を目的としていた。主な代謝経路は肝代謝・腎排泄である。

ここまでの治療で癌増殖を抑制できず、恐らく私にとっての最終の抗癌剤として★第6治療法のサイラムザに使用に至っている。

 

2)分子標的治療薬サイラムザの特性

 分子細胞生物学の進歩により、癌細胞の分子標的が明らかになりつつあり、これらの分子標的への作用を目的に創薬された薬剤を分子標的薬剤と言う。現在承認されている分子標的薬剤については第11稿で詳細に紹介させて頂いた。

この薬剤の特性として、①治療標的の存在 ②薬剤自体の抗腫瘍効果 ③標的の修飾により抗腫瘍効果が説明可能なこと、の3点が必要である。当初、分子標的薬剤は、従来の抗癌剤とは異なり、癌細胞の増殖を抑制するだけで腫瘍縮小効果はなく、副作用も少ないと考えられた。

しかし、実際には、RECIST(固形癌の治療効果判定基準)で評価される腫瘍縮小が認められる一方で、消化器毒性、肝毒性、皮膚毒性、肝毒性など多彩な臓器毒性も出現する。これは標的分子が必ずしも腫瘍細胞に特異的なものばかりでなく、正常細胞にも存在することが影響している。

 

3)小分子化合物

 分子量・構造の明確な化合物の総称で標的分子を特異的に阻害する。標的分子の多くは、受容体チロシキナーゼや細胞内シグナル伝達系に関わる酵素群である。NSCLC(小細胞肺癌)に対するゲフィニチブ、エルロチニブ、CMLGISTに対するイマチニブ、胃癌に対するスニチニブ、ソラフェニブなどがある。

 

3)大分子化合物

 分子量の大きい抗体、ペプチド、アンチセンス、遺伝子治療等が含まれる。これまでに成功しているのは細胞表面抗原を標的とする抗体製剤で、抗HER2抗体のトラスツズマブ、抗CD20抗体のリツキシマブ、抗EGFR抗体のセツキシマブ、抗VEGF抗体のペバシズマブなどがある。

 

4)分子標的薬剤の効果

 分子標的薬剤の効果は、腫瘍細胞に標的があるかないかで決まり、それが腫瘍細胞に時的な場合はall or nothingと考えられる。この為、抗腫瘍スペクトラムは狭い反面、効果は劇的な場合が多い(抗癌剤の場合はその逆になる)。典型例としてNSCLCEGFR遺伝子変異とゲフィニチニブ/エルロチニブ、CMLbcr-ablとイマチニブ、GISTc-kit(exon9/11)とイマチニブ、大腸癌のk-ras遺伝子変異とセツキシマブ等がある。

 

5)従来の抗癌剤と分子標的薬剤の主な違い

作用機序的には従来型抗癌剤は多くはcytotoxic,分子標的薬剤はcytotoxic,cytostaticいずれかあるいは両方である。生体への影響は、前者は正常細胞への障害が強いが、後者は標的分子以外は少なく、治療効果のエンドポイントは前者は腫瘍縮小であり、後者は腫瘍縮小、PFS延長、QOL改善、サロゲートマーカーによる評価である。

 

6)分子標的薬剤における耐性

 NSCLCに対するEGFRチロシンキナーゼ阻害剤のゲフィチニブ/エルロチニブでは、EGFRから独立した細胞増殖シグナルのKRAS遺伝子変異が自然耐性として、獲得耐性としてEGFRコドン790アミノ酸置換(T790M)やMET癌遺伝子増幅等がある。イマチニブ耐性CMLでは、bcr-abl依存性と非依存性の耐性機構があり、前者にはABCトランスポーター高発現、bcr-abl遺伝子変異、後者には代替SRCキナーゼ活性化等がある。

 

7)分子標的薬による皮膚障害

 近年、分子標的薬剤の導入が目覚ましいが、それらの有害事象として手足症候群やざ

そう様皮疹などが患者のADLを低下させる一因となっている。代表例としてはカぺシタビン、スニチニブによる手足症候群やセツキシマブによるざそう様皮疹などが知られている。手足症候群が出現する以前からの保湿やビタミンB6の投与が試みられている。また、症状が進行した場合には薬剤の減量・休薬の対応が必須である。セツキシマブのざそう様皮疹には積極的にステロイド外用薬(mildstrong)を積極的に導入することで症状が軽減され、治療継続が図られている。

 

8)サイラムザの3クール目の継続について

 

2.北大病院での治療について

1)サイラムザの点滴静注(9/28,10/19)

先ずアレルギー発現防止の為にクロール・トリメトン注10㎎、生理食塩水250ml30分かけて点滴静注した。1410分にサイラムザ50050ml、生理食塩水250ml1時間かけて点的靜注した。その間頻繁に血圧測定、日常的なバイタル測定を行い、経過観察を行い、点滴終了後更に1時間観察し、1610分に点滴治療を終了した。それから機械精算に40分を要した。

自宅に着いたのは18時で10時間30分のお出かけとなり、ロンには淋しい思いをさせてしまった。サイラムザは2年前に北大に転院した時から小松医師より「もうすぐ分子標的治療薬ラムシムマブが承認されるので、是非鵜木さんに使いたいと思っている」という期待の薬剤であった。

その時は「そんな先の話なんて…」と言うのが私の正直な感想であったが、2015622日に抗悪性腫瘍薬ラムシルマブ(商品名:サイラムザ点滴靜注液100㎎、同点滴靜注液500㎎)が承認・発売され、延命効果も認められ使えるようになったのである。

適応症は、「治療切除不能な進行・再発の胃癌」で、2週間に1回、8㎎/㎎をおよそ60分かけて点滴常注する。近年、進行胃癌の新しい分子標的治療薬トラスツズマブ(商品名:ハーセプチン)が臨床使用されるようになったもののトラスツズ抗ヒト上皮増殖因子受容体2型(HER2)陽性患者に限定されている。ラムシルマブは、血管内皮細胞増殖因子受容体2(VEGFR-2)に対する遺伝子組換えヒト免疫グロブリンGIモノクロナール抗体で、日本では胃癌に対する初の血管新生阻害薬である。

治療歴のある進行胃癌患者を対象としたラムシルマブとパクリタキセル併用投与による国際共同第3相無作為比較試験(RAINBOW試験)やラムシルマブ単独投与による外国第3相無作為比較試験(REGARD試験)において、二次化学療法での全生存期間と無増悪生存期間の有意な改善が認められた。上記2つの臨床試験からは、主な副作用として疲労/無力感、好中球減少症、白血球減少症、下痢、鼻出血、腹痛、高血圧などが、重大な副作用として動脈血栓塞栓症、静脈血栓塞栓症、Infusion reaction消化管穿孔、消化管出血などが報告されている。

 

2.   サイラムザ治療にあたっての留意点

 サイラムザは、「血管新生」を阻害する薬剤で、点滴投与すると新しい血管が形成されなくなるため、癌は栄養や酸素が不足して増殖できなくなる。1週間おきに約60分点滴投与する。治療効果や副作用の程度により、治療スケジュールを変更することもある。事前に副作用予防にサイラムザ投与前に抗アレルギー剤などを投与することもある。サイラムザ投与で癌が大きくなり、治療効果が乏しいと判断されるまで継続投与し、副作用によっては治療の途中で投薬中止もある。

おもな副作用は、高血圧であり、自覚症状の少ない副作用であるが、放置しておくと血管や心臓などに負担がかかるので、降圧剤で血圧管理も必要となる。訪問看護、血圧測定を日々実施している。また、腸管粘膜障害や腸管運動亢進により下痢を生じることもあるので水分補給に留意する。頭痛が起こった場合は高血圧が原因になっている場合もあるので留意が必要である。軽度な鼻血も生じる。だるい、疲れやすい、やる気が出ないといった身体的・精神的な疲れも出ることがある。特に38℃以上の発熱、頭痛、強い腹痛、吐血・下血、体の麻痺・ろれつが回らない、強い胸の痛み、呼吸困難・席・発熱が発言した場合は主治医への連絡を行う必要がある。

 

3.   自宅でのケア諸々

928日帰宅後は札幌在宅そよ風より、月~金曜日に訪問してくれ、戸井医師・花摘看護師が週1で訪問看護(ケア)してくれ、診察依頼から実施までの若干の時間ロスはあるが、ほぼ入院状況と変わらず私にとっては支障はない。基本的には医師の役割は

1)医師の役割

28日帰宅後腹水でお腹が張り、胸水もあるようで胸痛・息苦しさもあって胸水・腹水を抜いてもらうことになった。腹水・胸水を抜き出すと癌細胞の増殖が活発になると思っていたので私としてはできるだけ避けようと考えていたが、背に腹はかえられず、先ず、酸素吸入器を取り寄せ、吸引したところ明らかにSpO96%以上に回復し息苦しさも改善し、局所麻酔薬キシロカインで左下腹部に注射し、それぞれ1抜いた。胸の息苦しさは消えたが、腹部膨満は緩解までには至らず、後日再度腹水1抜いた。在宅では医師が専ら私の病状を観察・診断する。

 

2)バイタルサイン

 ①パルスオキシメーター・脈拍

パルスオキシメーターは、プロープを指先につけて、脈拍数と経皮的動脈血酸素飽和度(SpO)をモニターする医療機器である。正常値は96%以上で常に98%以上を示していたが、95%未満になると息苦しくなり(呼吸不全の疑い)、今後のことを考慮して(90%未満は在宅酸素療法の適応になる)在宅酸素を導入してもらった。

②フェントステープ

これまで使っていたフェントステープ(非オピオイド鎮痛剤及び弱オピオイド鎮痛剤治療困難な中等度から高度の疼痛を伴う各種類の疼痛に用いる薬剤)は、効果が薄れてきたようで、10月中旬よりモルヒネ塩酸塩の注射キットに変更し、レスキュー剤もセットした。

 ③血圧

 血圧は最高値110、最低値70くらいで落ち着いている。

 ④打診

 

 ⑤体温

 36.5℃前後で安定している。

以上のごとく、自宅でのバイタルサインは安定しているといえる。腎機能や感染症、栄養評価面も左程問題ないようである。

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