No.36  公主主義 ~国民イロイロ、政治家ウロウロ、役人ウハウハ!    2013年12月15日

 2013年12月6日、特定秘密保護法が成立した。同じ日に南アフリカの反アパルトヘイト(人種隔離差別)の闘士、ネルソン・マンデラ氏の死が報じられた。

新聞記事を読みながら、わたしは戦後の民主主義体制、その思想、自分と国家の関係を考える。/個人主義と/国家主義を両極とする戦後思想を考える。共/自治思想の不在の私公二階建体制、つまり「私」が「公」に依存するミーイズム個人主義の思想性を考える。

とりあえずの結論は、つぎのとおり。

 ○国民イロイロ、政治家ウロウロ、役人ウハウハ!

特定秘密保護法の成立は、民主主義から公主主義への戦後体制の転換点である。公主主義とは、公務員が自ら立案する法律により、国民を統制する国家思想である。

 *民主主義  私が公に依存する私公二階建体制 主権在民= 国家権力依存
立法府の国会議員が、行政機関の公務員を主導する国家体制

 *公主主義  公が私を支配する公私二階建体制 国権在公 = 国家権力支配

行政機関の公務員が、立法府の国会議員を操作する国家体制

 

○公主主義の背景 ~自治精神なき戦後民主主義思想のひ弱さ 

戦後民主主義体制と思想は、わたしの親たち―日本人民が、戦前の帝国主義国家に抵抗して闘い、勝ち取ったものではない。抵抗しながらも弾圧され、投獄され、拷問を受け、獄死した日本人の名前を何人かは知っている。しかし、マンデラ氏に匹敵する日本人民の闘士の名前をわたしは知らない。

日高六郎は、治安維持法違反の容疑で検挙され、獄死した三木清について、つぎのように語る。(「戦後思想を考える」岩波新書)

「三木清は、1945年(昭和20年)815日以前ではなく、815日から1ヶ月以上たった925日に獄死した。」「日本政府は、敗戦後にも、三木清を釈放しなかった。そして日本人民は、三木清を救い出すことができなかった。」「815日、敗戦と同時に、あるいは数日後に、或いは1か月後に、だれひとりとして、政治犯釈放の要求をかかげて、三木やその他の政治犯の収容されている拘置所・刑務所におしかけなかったということは、いうまでもなく日本敗戦の性格を物語っている。」

 

戦後日本の民主主義体制とその思想は、アメリカ進駐軍により保証され、布教されたものである。日本国民は、戦争が終わって歓喜して、感涙にむせびながら抱き合った。戦前の日本帝国臣民は、敗戦を境にして、「無謀な戦争を先導した」帝国軍隊を憎み、戦勝国であるアメリカ駐留軍を歓迎した。原爆を投下したアメリカを非難し糾弾する声すらあげることはなかった。愛国党などの右翼の街宣車は、星条旗と日の丸の両方を掲げた。「ヤンキーゴーホーム」のシュプレヒコールは、共産党の一部分子が叫んだに過ぎなかった。

明治憲法と教育勅語により天皇制民族主義思想に洗脳された臣民は、いとも簡単に手のひらかえすように、軍国主義から自由・人権・平和・民主主義の信奉者に転向した。

そして、戦後の日本は、国内的には憲法、国際的には日米軍事同盟の両軸を基盤として、平和と経済成長を謳歌してきたのである。

 

昭和18年生まれのわたしは、あらためて戦後の歴史をふりかえる。その歴史のなかで70年を生きてきた自分の人生に重ねる。国家と国民の関係を考える。戦前は、「国家のために死ぬ」覚悟と志操の軍国教育であった。

戦後教育は、新憲法のもとの志操なき平和教育である。理念としての軍事なき絶対平和思想。されど、その理想主義は、沖縄に過度に集中する米軍基地の実態、自衛隊の軍事力の実態を、「あってはならない」ものとして、思考の外におく。「あってはならない」ものに目をとじて、「この世にない」ものごとく振る舞うのが、戦後の平和運動、護憲思想ではなかったか。

民主党政権になって鳩山首相が、沖縄基地に言及した。「最低でも県外移設、将来は日本から米軍基地撤去」である。一周遅れの「沖縄を返せ、日本民族独立、ヤンキーゴーホーム」の思想である。

だが、民主党政権は、もろくもあっけなく自壊してしまった。平和主義者や護憲党派も沖縄の基地を本土で肩代わりする国民運動を起せなかった。労働運動も市民運動も、国家権力に文句をいうだけで、国家権力を奪取する目標はかかげられなかった。政権交代はしたけれど、国家権力を執行する能力は民主党にはなく、官僚役人と既得権益団体に国家運営を依存するしかなかった。

その根本的な理由は、民主党政権を支持し、期待した国民が、国家権力を執行できる思想性を持たないからだとわたしは思う。警察力、軍事力を前提にした国家論の不在である。労働運動や市民運動にとっては、警察力、軍事力などは「敵」であり、「あってはならない」ものなのだ。

その原因は、日本人民が帝国主義国家に抵抗して闘い、国家権力を奪取し、平和を謳歌する民主主義体制を築き上げたものではないからである。

右翼党派はもとより、左翼勢力も日米安保条約なかりせば、日本の繁栄はないと信じているのである。戦後の平和が守られているのは、憲法のおかげだけではない。アメリカ駐留軍のおかげでもあるのだ。

わたしは、ここに「自治精神なき戦後民主主義思想のひ弱さ」の根本原因を認める。

では、どうするか?

特定秘密保護法が成立したいまこそ、国家論の議論を!!

国民あっての国家なのか、国家あっての国民なのか?

以上  No.35  No.37へ  トップへ