No.35 自治的な社会思想を訓練する可能性としてのマンション団地経営  2013年10月21日

○状況

 国の財政は、不景気が続いて税収は伸びない。東日本大震災の復興や原発事故の後始末のため支出は増大する一途。社会保障費の自然増も年間1兆円。国は消費税をはじめ、いたるところで徴税義務に精勤することになる。取れそうなところからは、強引に取りたてる。

 そこで、国税庁は、「区分所有者が共有する施設の一部を、外部の使用者に貸し出し、賃貸収入を管理費に充当する」というマンション管理組合の事業を、「みなし法人」の「収益事業」として法人税を課することに目をつけた。

ほとんどのマンション管理組合は、これまで「自分たちは営利事業をおこなう団体ではないのだから、納税義務はないだろう。自分たちが共有する施設の一部を、外部者に貸して得た賃料収入なのだから、自分たちが負担する管理費に充当しても構わないだろう。」と思っていた。だから納税義務はないと判断してきた。

ところが、税務署は、平成24年の2月に、それを脱税とみなすことを公表した。時効である5年に遡って、追徴課税されるマンション管理組合のケースが、日経新聞でおおきく報道された。

 

 この事態をビジネスチャンス到来として捉えた業界がある。税理士やマンション管理会社である。これまで納税してこなかったマンション管理組合の理事会に、「なるべく早く申告しなければ加算税と延滞金が増えますよ」と情報提供する。マンション管理組合の理事会は、さあ大変だといって、国税庁の判断、税務の専門家にすなおに、唯々諾々と従う。管理会社のご指導のまま、あわてて納税申告届処理と課税計算を税理士に依頼し、納税額の予算を計上する。

わたしの住むマンション団地でも、この「税務問題」が発生した。理事会が、納税にかかわる事項を決議するために、臨時総会を開催する通知と解説書を組合員に配布した。

それを見て、びっくりした。5年前に遡及した納税額は、約1400万円!!である。わたしは、この事態を概要つぎのように理解した。

1.   管理組合は、組合員である区分所有者(約1000人)が共有する施設の一部を、外部の業者(クリニック、保育園など)に賃貸して、賃貸収入をえている。(年間約900万円)

2.   区分所有者は、持ち分におうじて共有施設にかかわる都市計画税、固定資産税を役所に払い、減価償却費に相当する修繕積立金を管理組合に払っている。

3.   管理組合は、管理会社に共有施設等の管理を全面的に委託している。(管理組合の支出の約半分、年間約12千万円)

4.   管理組合の賃貸収入は、区分所有者に帰属するものであるから、分配金として組合員が管理組合に払う管理費収入に、充当・相殺されている。

5.   ところが、税務署は、管理組合の賃貸収入を、管理組合の収益とみなす。しかし、その収入に対する必要経費として、都市計画税、固定資産税および減価償却費を認めない。その理由は、「賃貸物件は管理組合の所有物ではない」からである。

6.   管理組合理事会は、税務当局の見解を受け入れて以下の結論をだした。

「管理組合は今後、みなし法人として多額の法人税と事業税を納税しなければならない。さらに5年に遡って本税と延滞金を、国に納めなければならない。」

 

○関係者たち

この状況には、以下の関係者が登場し、情報流通のコミュニケーションシステムを構成する。

税務署―→税理士/マンション管理コンサル―→マンション管理会社―→管理組合理事会→(管理組合総会)→区分所有者―→管理組合―→(賃貸契約)―→共有施設の借主。

 賃貸収入から納税に向かうカネのルートは、上の流通とは逆に流れる。これまでの賃貸収入は、区分所有者に帰属すると解釈されてきた。しかし、国税庁は、それを認めないで、管理組合の収益事業の収入だとみなした。

 

○理事会の対応

 マンション管理組合理事会は、マンション管理会社とコンサルの説明をうけて、つぎのように判断した。

・納税義務遂行は逃れられない。

・放置しておけば、税務当局から税務調査を受けてしまう恐れがある。

・それは、社会的評価の棄損や風評被害など、資産価値の減少につながる。

・納税義務を一刻も早く完遂し、汚名を蒙ることないように努めよう。

 そこで、新たに税理士と業務委託契約をして、100万円の納税額を算出し、納税申告の手続きをおこなった。そして、理事会は、納税にかかわる事項を決議するために、臨時総会を開催する通知と解説書を組合員に配布したのである。

 総会の出席者は、組合員の約5%。大多数の70%は、委任状か議決権行使届で総会成立。総会前に数名の組合員が、質問書を理事会に提出したらしく、総会の冒頭約30分間、それらの質問にまとめて、管理組合の理事長から、口頭で回答があった。

 では、この状況と対応について何が問題なのか、何を問題とすべきか。

 

○何が問題か?

わたしは、理事会と区分所有者のそれぞれの「意識」と両者の「コミュニケーションシステム」のあり方を問題にする。今回の「税務問題」にかんしては、つぎのような「意識」がある。

  税務当局および外部関係者の見解を、全面的に了承する

  課税の可否、経費計上など、自分たちの意見を集約して税務当局と交渉する

  よく分からない、どっちでもいい、理事会に任せればいい、その他

理事会は、明らかに①である。②は少数で、③が多数と思われる。

いっぽう、理事会と区分所有者の「コミュニケーションシステム」は、つぎのように分類できる。

  総会に出席して質問や意見を述べる

  毎月の理事会に傍聴人として出席して質問や意見を述べる

  文書やメール等で質問や意見を述べる

 

1000人に近い組合員の中には、さまざまな意見や経験や専門知識の持ち主がいる。わたしは、今回の問題は、国税庁の権力的で恣意的な横暴だと考えるひとりである。国税庁の課税根拠と経費認定の解釈に納得できない。

税務調査を受けること自体は、何らやましいことでも、汚名でも、恥でもない。自分たちの意見を堂々と述べることこそが、団地コミュニティの風評とソフト資産価値の向上につながると確信している。

税務当局に言われるままに唯々諾々と従って、積極的に1400万円の資産を失うことは、「愚の骨頂である」と物笑いのタネにされ、思考停止、催眠状態じゃないか、その程度の団地なのか、などの風評被害をうけ、資産価値が減じるのではないかと考える。

これは、わたしの「意識/常識、知識、見識」であり、他人に強制はできない。しかし、自分たちの「資産価値」を維持して向上させようという「意識」は、大多数の組合と共有できると思う。だから1400万円という組合員の資産が、何の議論もなされずに失われるのは、妥当なことなのか?!と問いたい。この立場から、今回の問題点をつぎのように考える。

 

納税申告にかかわる情報公開や説明会の開催や議論の場などが、いっさいなかった。

組合員の大多数は、ことさらに問題視することなく、説明会などを要求しなかった。

理事会と組合員との間のコミュニケーションシステムのあり方が未熟である。

 

○思想の問題

 うえの現象的な問題を思想性の面でいえば、理事会の理事や理事長の「お上」に拝跪する臣民意識こそが、問題になる。「お上」を善とするから、税務調査に入られることに犯罪者意識を覚える。さまざまな意見を喧々諤々と議論できる風土を資産価値とみなさず、オープンなコミュニティ形成の思想性が貧困である。

「お上」崇拝意識が、組合員への情報非公開、オープンな議論を「やっかい者」として避ける。そして理事会の情報隠蔽への閉鎖体質を作り出す。大多数の組合員もそれを是とする。

ここに、「一部の」反体制的な過激分子と理事会との対決姿勢が鮮明になる。せっかくの団地管理組合総会は荒れまくる。総会は、ますます形骸化する。そして総会は、理事会の決議事項を単に追認するだけの「虚しい」場でしかなくなる。

 

この問題の根源は、/個人主義思想と/国家主義を両極とする戦後思想にある、とわたしは思う。共/自治思想が不在の「私公二階建国家」体制、社会システムである。お上と専門家へのお任せ民主主義思想とアメリカ流自己中心のミーイズムを支える社会システムである。

約1000世帯、2000人近い住民が住むマンション団地の集合住宅という生活環境において、戦後教育で育ったわたしたちは、自分たちの「共有資産」を「自分たちで管理する」という思想―自治思想・共生思想と行動能力が、ちっとも鍛えられていないのだ

組合員は、理事会にお任せ。理事会は、外部の管理会社とコンサルにお任せ。管理会社と税理士は、国交省と国税庁へ判断のお任せ。この思想性と、それを支えるシステムこそが、根本的な問題である。

「自分」と「みんな」の中間に位置する「自分たち」意識にもとづく自治精神と共同体の倫理性が、戦後の民主教育では、否定され、拒否されたのである。区分所有法が規定する「共有施設の共同管理」などを、自治思想なき住民に求めることが、そもそも無理なのだ。区分所有法の実態は、国交省―マンション事業者―マンション管理会社の立場と利益を優先する法律でしかない。

では、どうするか。区分所有者である組合員の意識とマンション団地経営システムの在り方が問われている。

 

○問題解決に向けて  ~総会のお祭り化へ

テーマ:自治的な社会思想を訓練する可能性としてのマンション団地経営のあり方

実践 :ホップ、ステップ、ジャンプの試行錯誤をともなう計画―実行―評価の実践

ホップ : 組合員(住民)どうしの「懇親懇談会」を制度化、定例化する

ステップ: 理事会と組合員との「意見交流会」を小さな単位で数多く開催する

ジャンプ: 総会は30分のシャンシャン終了、あとは家族参加の懇親大パーティ

その先: 管理会社に委託している業務を事業仕訳する。

「自分たちで出来ることは、自分たちでやる」という自治精神のコミュニティビジネスを通して、マンション団地経営のあり方を創造する。この目標に「楽しく」向かう実践活動により、マンション団地のソフト資産価値を向上させる。

以上  前へNo.34   次へNo.36   トップへ