No.34 「FreeSpace学習塾」を老人が応援する意義     2013年9月15日 

 江戸時代の鹿児島、薩摩藩には、『郷中教育』という武士階級子弟の教育法があった。郷中とは、士族数十戸を単位としたもので、今でいう町内会とほぼおなじ。薩摩藩の各地に全体で160近くの郷中があった。郷中の青少年が集い、訓練する場所は、健児の舎、「学舎」と呼ばれた。

郷中では、青少年を二つの年代に分けた。今でいえば、①年少者の小中学生程度と②年長者の高校生から未婚の青年までの二つ。教育内容は、武術武道修練、忠孝しつけの歌詞暗唱や薩摩義士伝輪読会、山坂達者(野遊びによる体力養成、肝だめし)、詮議(ディベート方式の討論会)など。

教育法の特長は、②年長者が年少者を指導すること、①年少者は年長者を尊敬すること。その目標は、強い身体力と不屈の精神力の鍛錬。薩摩武士の子どもたちは、「負けるな、うそをつくな、弱い者をいじめるな」ということを、人として生きていくために最も必要なこととして訓練された。

この特長を換言すれば、青少年たちによる自治精神の涵養である。大人たちは、「郷中教育」を少し離れて見守る立場である。(イギリス貴族が始めたボーイスカウトは、薩摩の郷中教育を参考にしたものだという説がある。)

 

現在の公益財団法人鹿児島奨学会・同学舎は、1905年(明治32年)、その薩摩藩つまり島津藩の財産をベースに島津奨学会として、文京区本郷追分で発足した。現在は、日野市に移転。寮生は、30数名。110年近い伝統をほこる鹿児島県人寮である。

その寮生の一人が、大学1年生のときの2011年6月、ある講演を聴いた。そして「感じたこと―国民として、市民として」を同学舎の会報に投稿した。要約すれば、つぎのような感想である。

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講演は、鹿児島県知覧特攻基地に動員された講師(81歳)の体験談。強調されたのは、「日本国民としての意識」。自分も小学校の社会見学の際に、知覧特攻平和館を訪れたことがある。展示されている戦没者の写真や手紙をみて、「戦争は二度と繰り返してはならない」、「平和であることに感謝しなければならない」などと「ご立派なこと」を思っただろう。しかし、講演を聞きながら見学当時のことを思い出せば、心の奥底では特攻兵たちのことを、自分とは異なるものとして見ていたことに気づく。

3.11東日本大震災の2011年は、国民としての意識を持たなければならない特別の年のはずであった。この歴史的な出来事のまっ只中で大学に入学した自分は、とりわけ「日本の将来を担うのだ」という心構えを持たなければならないはずであった。しかし、この1年そのことを考えていた時間が果たしてどれだけあっただろうか。大学という新しい環境、新しい出会い、新しい活動の中で、頭の中は常に「楽しいこと」で満たされ、「日本国民としての意識」という重大な責務を忘れていた。

今回の震災においても表層的には、被災者や最前線で原発事故に対応する方々に同情していても、心のどこかで自分とは異なるもの、関係ないものとして見ていたのではないだろうか。「重大な責務を忘れていた」というよりも、自分とは関係ないものとして遠ざけていたのだ。

講演を聴き、国民としての意識を高く持つためには、「つながりを感じる心の基盤」が不可欠であることに気づかされた。同じ文化を共有する者同士の絆である。

 

その点において、現在の同学舎のあり方には大きな問題があるのではなかろうか。日野市に存在しながら、その共同体との交流を絶っているように感じる。市民としてのつながりを感じることなくして、どうして国民としての意識を持つことができるであろうか。

同学舎に入寮して早や9ヶ月が経とうとしている。日本を担っていく者として、いやその前にもっと身近な共同体であるこの寮をになっていく者として、何ができるか模索している。

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その模索の結果であろうか、彼は2012年4月、「鹿児島奨学会同学舎」に住む大学生と日野市民の交流を活性化するために、「ちいき塾」というボランティア団体を設立した。現在、四つの部門に分かれて活動。同学舎の学生のみならず、市議会議員、幼稚園や小学校などの教育機関、寮の近くにある実践女子大学の学生との連携によって、活動の幅を広げている。

1.「教育サポート部門」

日野第一中学校で行われている、「土曜の補習授業」に参加し中学生への学習指導。また、学生寮内での学習塾の運営。

 

2.「イベント部門」

日野市で開催されるイベントに参加し、準備や後片付けなどのボランティアに参加。今年度は、日野市第四幼稚園の夕涼み会や、日野プレ国体などに参加。

 

3.「理科教育部門」

理科に特化した教育関連の活動。小学生を対象とした理科実験教室を開催。また、理科に関する学習コンテンツを提供するWEBサービスを開始。

 

4.「食育部門」

同学舎に併設された畑で農作物を栽培、収穫する活動をしている。市民、学生が一緒に土に触れ、そこで採れた野菜を食すような場となることを目指している。

 

上の「教育サポート部門」をさらに拡大した活動が、「FreeSpace学習塾」である。わたしは、老後をすごすササヤカな社会参加活動して、この「FreeSpace学習塾」を運営する学生たちを応援したいと思う。

その社会的な意義は、①子供たちを指導する②学生を③老人が応援する、という地域における世代間交流の創造である。異年齢集団活動による「教育文化」、「人間関係創造」のルネッサンスである。ルネッサンスとは、冒頭で紹介した薩摩藩の『郷中教育』青少年たちによる自治精神涵養、社会訓練の現代版にほかならない。

 

○老人は「FreeSpace学習塾」をどのように応援できるか?

  ネットを通じて応援メールや「いいね」を送信する

  学習塾を運営する経費を奨学資金として寄付する

  学習塾の運営に必要な場所や資材などを無償で提供する

  学習塾の現場を見学する

  飲み会などの懇親懇談交流会に参加する

  共働イベントを開催する

 

○将来展望

 まず、FreeSpace学習塾/日野同学舎をモデルとして、持続可能な強固な仕組みづくりを応援する。

 そして、その仕組み、ノウハウを他の県人寮や学生サークルや団地や町内会・自治会などにひろげ、全国各地にFreeSpace学習塾/XYZを展開していく活動を応援する。(XYZ;各地のFreeSpace学習塾の固有名称)

 

老水庵/老学援交コミュニティ形成活動の一環として、「FreeSpace学習塾」応援団に参加する有志を求めます。 

「お問合せ」にコメントなどよろしくお願い致します。

 

一定数の有志が集まれば、梁山泊「応援団のあり方」や「運営」について議論したい。

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