3.7 老人世代の新たな価値観と社会参加による社会保障の展望

 1)老人世代の新たな価値観と社会参加の実践

2)社会保障に関するアンバランスな時代状況

3)問題

4)どうやって歳入を増やすか?

5)どの歳出を削るか?

6)借金をどのように返済していくか?

7)そもそも、だれの責任か? 

8)子供でも分かる常識にもどる。

9)コミュニティ意識の再構築

10)世代間格差の解消、若者教育の支援を拡充

11)助け合い、世代間および世代内の再配分強化

 

1)老人世代の新たな価値観と社会参加の実践

老人世代が少年・学生世代を応援する倫理について考える。

倫理の根拠を、人智をこえた天:「お天道様」への畏怖とする。

倫理の実践を、人情が発露する共:「お互い様」への配慮とする。

他者と共存・共栄・共生して生きる社会的「倫理観」は、「私」の自由・個人主義、権利主張に偏重せず、「公」の権力・国家主義、保護救済にも依存しすぎず、その両極を中和する思想性である。

この思想性を、老人世代の新たな価値観とする。この価値観にもとづく社会的実践の考え方を図式化すれば、つぎのようになる。

天→私→共←公←天

●「私」の主体性の一部を、「共」に委譲する。

●「公」の制度執行の一部を、「共」に移管する。

●公務員が独占する「公共」を、「公」と「共」に解体して連携させる。

●私共公の社会的関係性の共通基盤として「天」への畏敬とする。

現代社会の常識と往還思想の倫理観との違いは、「共」と「天」に着目することである。「私・公」二階建社会に「共」層をさしこむ「私・共・公」三階建社会を、未来社会イメージとする。

共生思想は、往還思想をベースにして、新たな社会勢力である老人世代が活躍する居場所を、共:「お互い様」の地域コミュニティとする。

この思想性と社会保障政策の制度設計との関連を考える材料として、大学教授、研究者、市長、論説委員などの識者の発言を新聞記事から以下に引用する。

 

2)社会保障に関するアンバランスな時代状況

 成熟社会、低成長経済、人口減少、超高齢化、社会保障費の増大。歳入不足、歳出膨張、国家財政の赤字、1千兆円の借金。国内総生産(GDP)比200%の政府債務。

家計にたとえれば、借金1億円、年収400500万円、支出900万円(利子払い100万円)、年収の2倍で暮らす借金まみれの生活状況にひとしい異常なモラルハザード。

負担と給付―財源、税金、保険料と医療、介護、介助、生活保護などのアンバランス。

 頻繁に旅行を楽しむ余裕のある高所得高齢者も少なくない。いっぽうで、非正規雇用で低所得、結婚できない若者も多い。失業率は若年層がもっとも高い。世代間の生活水準のアンバランス。

 少子高齢化社会、より多くの高齢者の生活を、より少ない現役世代で支えなければならない人口動態のアンバランス。

多くの若者が、「年金なんて払っても戻ってこない」と考えている。いまの社会保障制度への不信である。誰も「負担などしようと思わなくなる」だろう。

社会保障の「財源負担と給付水準」をどうするのか。

・財源不足の現実認識

・改革を先送りする危険認識

・安心して暮らせる将来像のシステム設計/多様な選択肢と優先順位

 

3)問題

1.どうやって歳入を増やすか?

2.どの歳出を節約するか、削るか?

3.借金をどのように返済していくか?

 

4)どうやって歳入を増やすか?

 行政のムダを省けば、なんぼでも財源は出てくるのか?

景気対策で経済が成長すれば、税収の自然増に期待できるのか?

 欧州各国並みの税率20%の消費増税にすべきか?

 受益者負担の割合を増やすべきか?

 資産や所得の裕福層への累進課税を強化すべきか?

 その他、どんな増収策を組み合わせるか?

 

5)どの歳出を削るか?

負担に見合う社会保障サービスの水準を下げるべきか?

景気を悪化させないために、歳出削減はすべきではないのか?

既得権益を固守する欲深い仕組みを壊すことができるか?

ズル詐欺小悪党たちを厳しく監視する罰則を強化するか?

その他、どんな歳出削減策を組み合わせるのか?

 

6)借金をどのように返済していくか?

 景気を良くするには国債残高の増加はやむをえないのか?

 財政破綻、借金が返せなくなったら国家はどうなるのか?

 

7)そもそも、だれの責任か? 

 政治家? 官僚? 学者? 専門家? 既得権益者? 国民自身?

○政治家、政治学者

選挙の落選を気にして負担増反対、バラマキ予算獲得に奔走。目先のことだけ、本質的な問題を先送り。専門性と戦略性なき衆愚政治システム。選挙制度と参議院の欠陥露呈。 個人の自由人権と国家の権力統制との相克。

民主主義の理想だけを唱える政治学者の無力、政治家ウロウロ。国家経営を担う信頼できる本物の政治家とは?

 

○経済学者、官僚

歳出削減と増税は、デフレを脱却しない段階では景気を悪くするだけだというノーベル賞の権威をふりかざす経済学者。景気対策、財政出動、成長戦略、税収アップを信奉する「景気」イデオロギー近代経済学者。

資本主義経済体制を批判するだけの図書館にこもる理論経済学者。省益と既得権益層を代弁する有識者会議、それを隠れ蓑にする縦割り行政官僚。

身分保障の公務員天国、官僚ウハウハ。主権在民の信頼できる本物の行政とは?

 

○国民

性別、少壮老、元気/病人、健常者/障害者、要介護者/介護者、富裕層/貧困層、思想、信条、能力、仕事、地位、趣味、性格、Will欲望Can能力Must規範、それぞれ国民イロイロ。財源に頓着せず行政サービスを求める人権尊重、生活を守れ、消費増税反対、国民負担増反対、弱い者の味方の大合唱。

個人主義と国家依存の無責任思想。お任せ民主主義、有識者専門家会議民主主義、主権在民の民主主義とは?

 

8)子供でも分かる常識にもどる。

◆年収の2倍を使う借金まみれの生活は続かないよ。

◆人口減少、高齢化社会、いつまでも経済成長は続かないよ。

◆受益に見合った負担は、公平原則から考えて当然ではないですか。

◆困ったときは、お互い様で助け合い。

 

9)コミュニティ意識の再構築

 仲間と自分たちで何事かを為しとげるという自治的連帯システム。信頼できる仲間、許せる仲間、人間はどこかでつながっているという「お互い様」意識。互助・共助のソーシャルビジネスコミュニティの形成。

◆若い人を中心に、相互信頼に基づく、新たなコミュニティが形成されつつある。

◆若い社会的起業家らの活躍が目立ってきた。NPO活動に優秀な若者が関わるようになってきた。

NPOなどへのお金の流れを増やす。

 

10)世代間格差の解消、若者教育の支援を拡充

社会保障費全体のうち、高齢者に関係する給付は、7割を占める。平成23年度社会保障給付費の総額は、前年度比25千億円増の1075千億円。増額の理由は、高齢化と医療技術の高度化。年金給付が約半分の53兆円、医療が34兆円。年金給付は、今後も増加し続ける。

高齢者は、自分が支払った以上の年金を受け取っているが、その意識が薄い。生きている限り年金額は減らない。

現在の年金制度では、高所得者層ほど報酬比例部分で高い年金を受け取る。貧困者など本当に必要な層に十分な基礎年金が支給されていない。

○所得の高い高齢者の厚生年金の報酬比例部分の一部を、若者支援に回すべきではないか。

○高齢者は、若者を無視して自分たちの利益を守りたいわけではない。

○若い世代に還元したいと負担増に理解を示す高齢者も少なからずいる。世代間公平を果そうとする感情は、底流に脈々と流れているのではないか。

 

11)助け合い、世代間および世代内の再配分強化

助け合いというのは、「お互い様」の保険の原理。「助け合いの精神という意味では、年金課税と資産課税の強化による、豊かな高齢者から貧しい高齢者への世代内再配分が有効だ。結果的に現役世代の負担の軽減と世代間格差につながる」

「年齢に関係なく、困っていない人が困っている人を助ける。世代間対立ではなく、信頼できる回路の創出」、「倫理観をベースにした社会保障制度の改革」

  以上、すでに新たな制度設計へのさまざまな方向性と展望が語られてきた。往還思想および共生思想との共通性はおおきい。

わたしは裕福で余裕のある金持ち老人ではない。しかし、飲み代や旅行費用を節約して、若者を応援するために、わずかばかりの奨学資金を提供したいと思う。

若者と交流するときに「共生思想」と「倫理観」―「お天道様」を語りたい。4章であらためて「倫理とは?」を考える。

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